2007年5月14日、いわゆる国民投票法(正式名称は、「日本国憲法の改正手続きに関する法律」)が成立しました。この中で、国民投票の投票権が原則満18歳以上に与えられることとされたため、『18歳成年制』についての話題がマスメディアを賑わせたことは、皆さまの記憶にも新しいかと思います。
そこで、今回は『18歳成年制』について取り上げ、現行満20歳とされている成人年齢を18歳に引き下げるべきなのかどうか、皆さまと一緒に考えてみたいと思います。
- そもそも、国民投票法とはどのような法律なのでしょうか。
国民投票法とは、正式名称をみてもわかるように、憲法改正の具体的手続きを定めた法律です。これまで日本には、憲法改正に際する国民投票の具体的方法について定めた法律が存在しませんでした。そこで、国民投票法が制定されることになったのです。 - 国民投票法は、国民投票の投票権を原則として満18歳以上に与えていますが、この規定は、現在、国会議員の選挙などの参政権を満20歳以上に認め(公職選挙法第9条)、民法において成人は満20歳とする(民法第4条)など、大人と子供の境目を満20歳としていることと一致していません。
参政権を何歳から与えるかは政策的判断であり、成人年齢と必ずしも一致させなければならない訳ではありません。しかし、「大人になったから、投票できる。」とするのが、わかりやすく、すっきりした考え方ともいえます。
そこで、国民投票法は、「成年年齢に関する公職選挙法、民法等の関連法令については、十分に国民の意見を反映させて検討を加えるとともに、本法(国民投票法のこと。筆者注)施行までに必要な法制上の措置を完了するように努めること。」との附帯決議をなし、暗に『18歳成年制』導入を促しています。
- 現行の『20歳成年制』では、未成年者の早熟化に対応しきれていない、という不都合性が指摘されています。
つまり、栄養状態の高まりにより身体的成熟が早まっていること(たとえば、昭和35年の17歳男子の平均身長は、平成19年の14歳男子の平均身長とほぼ同じです)、昨今のインターネットや携帯電話の普及により未成年者の活動範囲が拡大していること、成年顔負けの計画的かつ残忍な少年事件が増加していることなどからすると、20歳未満であることだけを理由として、成年とは異なる取扱をすることに正当性を見いだすことができるのか疑問が残ります。 - 他方、『18歳成年制』では、果たして18歳で経済的に自立しているといえるのか問題となります。
権利は当然、義務をも伴います。例えば、現行法では、未成年者が親権者の同意なく単独でローンを組むなどの法律行為をした場合、未成年者はその法律行為を取り消すことができます(民法第5条第2項)が、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられた場合、18歳を迎えるとこのような保護規定の恩恵に与れなくなることになります。
この点、日本における18歳人口の進学率は、大学・短大・専門学校等全て合わせると実に約8割にもなります。勿論、例外はあるでしょうが、大多数の学生は、学費や生活費等の工面を親に頼っており、経済的に自立している者は多くないでしょう。
経済的には自立していないにもかかわらず、自らの法律行為の責任は負わなければならない、という論理には、無理があるようにも思われます。 - また、日本では、何歳までを若年者として保護の対象とするのかの基準が、各法令間で統一されていません。そこで、法の狭間におかれ、適切な支援が受けられないというひずみも生じてきています。
例えば、児童福祉法は18歳未満の者を「児童」とし(児童福祉法第4条)、福祉の対象としています。18歳にもなれば、虐待等を行う親の元から逃げようと思えば自分で逃げて、仕事等をすることにより生活できるだろう、ということで定められたと考えられます。ただ、民法上は、20歳になるまで子供は親権に服さなければなりません(民法第818条第1項)。そして、この親権の一内容として、子供の居所指定権(同法第821条)と職業許可権(同法第6条)がありますので、子供は20歳になるまで、親の元から逃げようと思っても逃げられません。また、未成年者の法律行為には、親の同意が必要なので(同法第5条)、単独で家を借りることもできません。しかしながら、18歳になると児童福祉法の対象からは外れてしまうので、児童養護施設等からは退去しなければならなくなり、苦境に立たされることとなります。
世界を見渡すと、韓国やニュージーランド、タイなどは成人年齢を20歳にしていますが、アメリカの多くの州やイギリス、フランス、そしてドイツ等欧米諸国では18歳を成人年齢にしています。イランの成人年齢は何と15歳(!)です。
選挙権は、といいますと、世界189カ国・地域のうち、約9割の166カ国・地域が18歳から認めています(国会図書館調べ)。
また、1989年に国連で採択された「子供の権利条約」でも18歳未満が子供とされ、成人年齢18歳は世界的な流れといえます。
- 現行の「20歳成年制」を変更する場合でも、単純に成人年齢を引き下げる以外にも、裁判所等による審査を条件に、未成年者が服している親権からの解放を認めるという制度や、成年・未成年で2分するのではなく、段階的に権利を付与する制度を採用する、という方法も考えられます。
親権解放とは聞き慣れない言葉ですが、フランスで取り入れられている制度です。フランスでは18歳が成人年齢ですが、未成年者であっても16歳に達した場合には、親権者の請求に基づき裁判官によって正当な事由があると認めるときに、親権解放の宣言をして、未成年者の行為能力の制限が解かれることとされています。 - 日本も、現状において、親権解放の制度や、段階的な権利付与の制度に近い制度を採用しているとも考えられます。
未成年者の職業許可権(民法第6条)や婚姻に関する規定(民法第737条。20歳未満の婚姻には親の同意が必要)などは、裁判所こそ関係しませんが、まさに日本版親権解放の制度といえます。
段階的な権利付与制度の身近な例としては、自動車の普通免許は未成年者である18歳から認められる(道路交通法第88条第1項第1号)ことなどがあります。
少年法も、20歳未満が「少年」であるとしながら(少年法第2条第1項)、手続きや刑罰につき、14歳、16歳、18歳でそれぞれ年齢に応じて手続きを変えています。
このように考えてみますと、それぞれの法令の規制目的は多種多様であり、成人年齢を20歳から一律に18歳に引き下げることが、引き下げにより新たに成人に加えられる世代の人間の、ひいては社会全体の利益になるのかどうか、一概には決することができない難しさがあるようです。そこで今回は、成人年齢をどのように定めるべきか、アンケートにお答えいただくとともに、皆さまのご意見をお聞かせください。
18歳成年制について
- 成人年齢を18歳とし、他の20歳を基準とする法令も18歳に統一すべきである
- 成人年齢を20歳とするが、18歳を基準とする法令があってもよい
- 成人年齢を20歳とし、他の18歳を基準とする法令も20歳に統一すべきである
- 成人年齢を20歳よりも引き上げるべきである
コラム『なぜ日本では20歳が成年とされたのか?』
今回の特集の本編では、成年年齢の引き下げがテーマとなっていますが、そもそもなぜ日本では20歳をもって成年とされたのでしょうか?このコラムでは、この部分について歴史をひも解いてみたいと思います。
日本ではじめて成年を20歳と定めたのは、明治9年の太政官布告(旧憲法における法律)でした。これは「自今満弐拾年ヲ以テ丁年(成年)ト相定候」というもので、その後、民法の制定の際にもこの20歳という基準が踏襲され、現在に至っています。
では、なぜ20歳だったのでしょうか。実ははっきりしたことはわかっていないのですが、当時の平均寿命(約43歳)や精神的な成熟度、古くから「一人前」と扱われてきた元服(約15歳)の慣習を考慮して定められたと考えられています。
当時の欧米諸国は、平均寿命が40歳代後半であったことを背景に、成人年齢を21歳から25歳にしていたとのことですから、当時は日本の成人年齢がむしろ低かったのです。
現在の日本人の平均寿命は男性79.0歳、女性85.8歳。平均寿命で成年年齢を定めるなら、むしろ成年年齢は上がるはずなのですが、さて...。