夫または妻の不倫が原因で離婚を考える人の中には、不倫をした夫や妻に対して慰謝料を払わせるだけではなく、その相手に対しても慰謝料を払わせたいと考える人は少なくないでしょう。
ただ、「慰謝料を請求するには、どんな準備が必要か」「一体いくらぐらい請求すればいいのか」となると、具体的にイメージできない方もいらっしゃると思います。そこで、浮気相手への慰謝料請求で押さえておくべきポイントをご紹介します。
浮気と不貞行為のボーダーライン
浮気と不貞行為、これらはいずれも「結婚しているまたは交際中であるにも関わらず、他の異性と好ましくない関係をもつ」いう意味合いをもつ言葉です。
両者の違いは、「民法上の離婚事由であるかないか」という点にあります。民法770条1項には、離婚事由がいくつか規定されていますが、その中の一つが「配偶者に不貞な行為があったとき」(同条項1号)です。
そして、「不貞な行為」とは、「配偶者のある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」をいいます(最高裁昭和41年11月15日判決)。配偶者とは、法律上の婚姻関係の相手です。
法律上の婚姻関係にある夫婦は、互いに配偶者以外の相手と性的関係をもたない義務をもつとされています。これを貞操義務といいます。この貞操義務に違反して、他の異性と肉体関係をもつことが不貞行為です。
一方、浮気という言葉は、例えば「彼女が浮気した」というように、婚姻関係にない場合でも使います。また、「二人きりで食事に行った」「キスをした」など、浮気とされる行為も必ずしも肉体関係をもった場合に限られません。
つまり、浮気と不貞行為のボーダーラインは、(1)婚姻関係にあるか(2)肉体関係をもったかという点にあると考えられます。
不倫相手へ慰謝料請求するには
1. なぜ慰謝料を請求できるのか
不貞行為の相手に慰謝料が請求できるのは、もちろん法律上の根拠があるからです。その根拠は、民法709条と710条にあります。
民法709条は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と定めています。
先ほども触れましたが、法律上の婚姻関係にある夫婦は、互いに貞操義務を負います。この裏返しとして、配偶者に対して、貞操義務を守るように要求することもできると考えられます。不貞行為によって、「配偶者に貞操義務を守るように要求することができる利益」が侵害されるため、不貞行為の相手は、不貞行為によって生じた損害を賠償する責任を負います。
また、民法710条は、「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。」と定めています。
ポイントは、「財産以外の損害」というところです。つまり、不貞行為により、精神的な苦痛を受けた場合も損害賠償を請求することができるのです。この精神的な苦痛に対する損害賠償が、一般的に「慰謝料」と呼ばれています。
2. 慰謝料請求の注意点
不貞行為があればすべての場合に不貞行為の相手方に慰謝料が請求できるわけではありません。
709条は「故意又は過失」によって他人の権利を侵害した場合に、損害賠償責任を負うとしています。
例えば、配偶者が既婚者であることを隠して不貞相手に近づき、不貞相手がそれを信じたとしても無理はないというような状況であったなら、「故意又は過失」はないといえるため、損害賠償責任は生じません。
また、損害は、相手の行為「によって」生じたものでなければなりません。これを、行為と損害の因果関係といいます。
例えば、不貞行為の前に別の原因で夫婦関係が既に悪化しており、何年も別居していたという場合には、不貞行為が原因で夫婦関係が悪化し、精神的損害が生じたとはいえないため、因果関係が認められず、損害賠償責任は生じません。
3. 慰謝料請求の方法
不貞相手に慰謝料を請求する場合、まずは交渉から入るのが一般的です。「不貞行為により精神的損害を受けたので、慰謝料を請求します。」という内容の書面を相手方に送付し(内容証明郵便で送付することが一般的です)、その後は相手と話し合いをしたり、書面をやり取りしたりして、金額や支払時期などの条件を詰めていきます。
合意にこぎつけたら、その内容を記載した書面(和解書)を作成します。
交渉で合意に至らなかった場合は、訴訟を提起します。
まず、裁判所に「訴状」という書面を提出します。訴状には、慰謝料の金額や、慰謝料請求に至った事情を記載します。
その後は、訴訟を提起した側と相手方がそれぞれの言い分を述べたり、不貞行為の事実を証明する証拠を提出したりという流れで進みます。裁判所は、これらの言い分や証拠をもとに、最終的な判断を示します(判決)。
交渉・裁判のどちらも、自分で行うことができます。ただし、不貞行為の相手と直接やりとりしたり、慣れない書類作成をしたりすることは非常に負担となります。負担を軽減したいのであれば、弁護士にこれらの手続きを依頼するのもよいでしょう。
判例からひもとく不倫慰謝料の金額
不貞行為により離婚をする場合、配偶者の不貞相手に対する慰謝料の額は、個別の事案によります。一般的には、100万円から300万円のケースが多いといわれています。
裁判では、慰謝料の金額は、次のような事情を考慮して、総合的に判断されます。
【金額が高くなる事情】
- 婚姻期間が長いこと
- 不貞行為がきっかけとなって、夫婦関係が悪化したこと
- 夫婦間に子どもがいること
- 不貞行為の期間が長いこと
- 不貞行為の回数が多いことやその頻度が高いこと
- 配偶者が不貞行為の相手と同棲していること
- 不貞行為の相手が、配偶者の子どもを出産したこと
- 不貞行為の相手が、反省の態度を示さないこと
- 不貞行為の相手に資力があること
【金額が低くなる事情】
- 夫婦関係がもともと良好でなかったこと
- 配偶者が、積極的にはたらきかけて相手方と関係をもったこと
- 不貞行為の相手方が、既婚者と知らずに配偶者と関係をもったこと
- 配偶者が、既に慰謝料を支払っていること
浮気の証拠はできるだけ押さえておこう
慰謝料請求の交渉で、「あなたは不貞行為をしたのだから、慰謝料を払ってください」と主張するだけでは、相手に開き直られてしまった場合、話は平行線をたどるばかりです。
また、裁判を起こすにしても、「確かに不貞行為があった」と裁判官に認めてもらうだけの根拠がなければなりません。つまり、慰謝料を請求する場合、不貞行為が存在したことを客観的に証明できる証拠を押さえておくことが非常に重要です。
不貞行為の証拠の例としては、次のようなものがあります。
- 配偶者と浮気相手が一緒にホテルに入るところを撮影した写真やビデオ
- ホテルの領収書や、クレジットカードの明細
- 性的関係をうかがわせるようなメール、手紙
- 配偶者の言動を書き留めたメモ
- 配偶者や浮気相手の行動に関する第三者の証言
ただし、証拠になるならなんでもよいというわけではありません。人間の記憶はあやふやなものですから、人の記憶のみに基づく証拠は、あまり信用されません。したがって、証言やメモ書きなどよりは、写真やホテルの領収書などのほうが、証拠としての価値が高いといえます。
まとめ
以上のように、不貞行為の相手方に慰謝料を請求するには、それなりの準備が必要です。夫や妻の不貞行為が発覚したからといって、衝動的に行動を起こすことはおすすめできません。
まずは、事実関係を整理し、証拠の収集の収集を行うなど、冷静に準備を進めることが大切です。何から始めてよいかわからないという方は、弁護士に相談されることをおすすめします。