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離婚調停の手引き~基礎知識から準備、対策まで

 日本における離婚の約9割は、婚姻中の夫婦の合意だけで成立する協議離婚です。
 夫婦間で離婚や親権者の指定、財産分与等、離婚の条件で合意に至らなかった場合は、離婚調停・離婚審判・離婚裁判といった、裁判所で離婚手続を行うことになります。
 離婚に至るまで多くの問題を解決しなければいけませんが、どのような手順に沿って離婚に至るのか、今回は「離婚調停」についてお話ししたいと思います。

離婚調停とは 入門編

 裁判所を交えた離婚手続は当事者の申し立てによって開始しますが、原則としていきなり「離婚裁判」を提起することはできません。
 裁判による離婚になると、厳格な手続に基づき、証拠に基づいて法定離婚事由(民法770条1項各号)を主張立証しなければいけません。また、裁判は公開の法廷で行わなければいけませんので(憲法82条)、プライバシーを確保できないなど、多くの制約があり、時間・費用・労力が必要となります。

 そこで日本の離婚制度は、「離婚裁判」を提起する前に、「離婚調停」を経なければならないと定められています(家事調停前置主義家事事件手続法257条1項)。

 「離婚調停」は、裁判官と離婚問題に詳しい専門家(調停委員調査官)が双方の意見を聞いた上で、離婚(又は夫婦円満)に向けて客観的な立場からアドバイスをしながら、当事者の話し合いで合意を目指すものです。
 なお、離婚調停では、基本的に当事者双方が同席することなく一方ずつから調停委員が話を聞くことになります。

 「離婚調停」のメリットは、第三者である調停委員らが間に入って、双方を説得することで合意に至りやすい点にあります。また、時間・費用・労力の点でも裁判より負担が軽い点も特徴です。

 裁判所の司法統計によると、2014年に裁判所に申し立てられた婚姻関係事件数は6万5538件で、このうち3万5679件(54%)が調停で合意に至り、取り下げられた調停の件数が1万4782件となっています。

離婚調停にかかる費用と期間

 離婚調停を含む家事調停は当事者又は代理人が、申立書に証拠書類も添えて裁判所に提出することで始まります(家事事件手続法255条1項)。
 申立てにかかる費用は、申立ての手数料として印紙代1200円、さらに呼び出し状の貼付け切手800円分、弁護士に依頼した場合には弁護士費用がかかります。
 弁護士費用は、弁護士によってかなり幅があるようですが、20万円から40万円程度かかることが多いようです。弁護士費用では、報酬に加えて実費が請求される場合がありますので、契約時には確認をしておきましょう。

 また、離婚調停で合意に至った場合には、調停調書を離婚届とともに役所に提出することになりますが、調停調書の謄本を請求するのに印紙代が数百円必要となります。

 調停はあくまで当事者同士の合意にかかっていますので、親権や養育費をはじめ、争点が多ければ多いほど調停の期間は長期化する傾向があります。
 また、当事者の一方が離婚することに反対している場合やどちらが親権者になるか争いがあればさらに時間がかかることが予想されます。
 おおよその相場として、申立てから調停が終了するまで約7割の調停が、3ヶ月から半年以内に終了しています。

離婚調停の有利な進め方

 離婚が認められやすい理由の例として、相手方が不貞行為をしていた、3年以上生死不明、強度の精神病を患っているほか、暴力やモラハラの存在、不労・浪費・借金その他経済問題、相手方の宗教活動、性交渉の拒否をはじめとする性生活上のトラブル、性格の不一致や愛情の喪失などがあります。
 さらにこれら要素とは別に、別居期間の長さも離婚の決め手となります。

 調停は調停委員が当事者の片方の話を聞き、これを相手方に取り次ぐことを繰り返して夫婦間の話し合いを取り持ちます。
 そして双方の主張と調停委員が考える妥当な決着を考慮してお互いに妥協案を提示しますので、調停を有利に進める鍵は調停委員にあるといえます。

 そこで、調停を有利に進めるためには、先に述べた離婚が認められやすい理由を簡潔に述べること、自分の気持ちを嘘偽りなく正直に伝えることが重要です。
 調停委員との話し合いは1回につき30分ほどしかないことと、調停委員も多くの場数を踏んでいることから、情緒に訴える表現をするばかりよりも時系列順に具体的な事実を述べていく方が却って伝わりやすい側面があります。

 その際に証拠として写真や日記、手控えがあるとより説得力が増します。暴力行為を受けていた場合、傷の写真や医師の診断書があるとなお良いでしょう。
 また、離婚後の財産分与も見越して、調停の申し立てをする前に相手方が有している銀行口座や預金残高等を具体的に把握しておくのも非常に重要です。

 調停委員に対する印象も調停を有利に進める上で当然重要です。
 マナーや服装はもちろんの事、相手方を非難することに終始したり、提示された調停案に必要以上に感情的になって八つ当たりしてはいけません。
 ただし、調停委員との相性もありますので、必要以上に離婚後の条件に妥協したりせず、その後の離婚訴訟を見据えた行動をとりましょう。

成立しなかった場合

 離婚調停が不成立になることを不調といいます。
 不調になると、改めて申立てをしなくとも調停申立て時に審判の申立てがあったとみなされ審判手続きに自動的に進み(家事事件手続法272条4項)、調停の内容を踏まえて裁判所が最終的に判断することになります(家事事件手続法284条)。これが離婚審判です。
 ただし、裁判所の審判に対し当事者は異議申し立てができますので、審判の効力が無効になることが非常に多く、実務上ほとんどなされません(同法286条)。

 裁判所の司法統計によると、2014年において調停に代わる審判が行われ、異議が申し立てられなかったものは、同年の離婚関係事件全体の中で0.8%程度となっています。

 異議申し立て後に当事者のどちらかが訴状を家庭裁判所に提出すると訴訟が開始されます。これがいわゆる離婚裁判です。

 訴えを提起する際にかかる費用は、弁護士費用に加えて印紙代13000円、これに財産分与や慰謝料請求の額に応じた金額の印紙代、郵便切手代など諸々の費用がかかります。
 裁判が開始されると、離婚を求める原告側が積極的に民法770条1項各号に当たる離婚原因の存在を主張しなければなりません。離婚原因の有無の判断は、裁判官それぞれの価値観に大きく影響をされることも特徴です。
 また裁判が始まった後も、裁判所は和解での離婚を勧めることが多いので、和解で終了することも多いです。
 裁判の期間は事件の複雑さにもよりますが、おおかた1年程度で終了します。ただし、判決が下されても2週間以内に相手方が控訴すると、今度は高等裁判所で審理が開始されます。

おわりに

 離婚調停は婚姻中の夫婦に第三者が間に入って話し合いで解決することが狙いですので、弁護士が必ず必要というわけではありません。

 しかし、調停の有利な進め方やその後の訴訟の見通し、慰謝料等の相場など、実務感覚に基づいた適切な助言があるだけで心理的に負担が大きく軽減されるかと思われます。
 直接法律事務所に問い合わせるほかに、費用や手続きについての心配やそもそも相談していいことかどうかわからないことがあれば、市役所での無料法律相談や法テラスの利用、最近ではインターネットで検索すると無料電話相談を受け付けてくれる弁護士も多いので、これらの利用をお勧めします。

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