離婚の手続は、離婚届に書き込んで役所に提出すればいい。そんな簡単な手続と思われがちです。
ですが離婚届は何も考えずにただ書けばいいというわけではありません。
離婚は夫婦の法的な関係を終わらせる重要な手続なので、離婚届を書くときや提出時にも注意を怠らないようにしないと、思わぬ所でつまずいたり不利益を被ってしまうことにもなりかねません。
今回は、離婚届の書き方や提出時に注意すべき点についてご紹介します。
1.離婚届を書くときの注意点
離婚届は市役所等の役所に備え付けのものがあるほか、ネットでもダウンロードできます。
必要事項を書き込むときには次の点に注意しましょう。
(1)事前準備を怠らず、慎重に書く
離婚届には離婚後の法的立場をどうするのかを記入する必要があります。
離婚後の氏(元の姓に戻るかどうか)、新しい戸籍を作るか(結婚前の戸籍に戻るかどうか)、未成年者の子供の親権者を夫婦のどちらにするか、など、離婚後の生活に影響することもあるので、書き込む時に慌てることのないよう、事前にきちんと決めておきましょう。
(2)記入は正確に
とても当たり前のことですが、書き漏らしがないように正確に記入しましょう。
a.住所や本籍
住所や本籍地は正確に記入する必要があります。普段書く書類では「○丁目○番」などを省略して書いてしまいがちなので、住民票や戸籍を見ながら正確に記入し、省略したものは書かないようにします。
b.署名欄は必ず自署で
届出人署名押印欄は、離婚の届出人が必ず自分で署名押印をする必要があります。書類の提出を誰かに頼む場合でも、代筆で済まさないように注意しましょう。
協議離婚では夫と妻の両方が署名押印します。
裁判離婚(裁判所で離婚が成立した場合)では、届出人の署名は1人です。離婚を申し出た申立人が届出人として署名押印します。ただ申立人が離婚裁判の確定から10日以内に届出をしなかった場合は、夫と妻のどちらかが届出人として署名押印を行えばよいことになっています。
なお協議離婚の場合には2名の証人の署名押印が必要です。証人になったからといって何か責任を負うわけではないので、必ず自筆で書いてもらうようにします。なお裁判離婚の場合には、証人欄は空欄でかまいません。
c.安易に署名をしない
離婚は言うまでもなくとても重要な手続です。離婚をする気も無いまま安易に署名をしたら、そのまま相手に提出されてしまうかもしれません。離婚届不受理申出をしていない限り、離婚手続が進んでしまうので、離婚届への署名は慎重に行いましょう。
(3)必要書類等の準備
離婚届の提出には次のような様々な必要書類があります。書類がそろっていなければ離婚届は役所が受理してくれません。不足のないように注意しましょう。
- 協議離婚の場合:離婚届、戸籍謄本
- 裁判離婚の場合:離婚届、裁判所の証明書類、戸籍謄本
※本籍地の役所に届け出る場合は戸籍謄本は不要
※どちらの離婚の場合でも、役所で提出者の印鑑、身分証明が必要な場合あり
裁判離婚の場合は、離婚が成立したことを証明する裁判所の正式な書類が必要です。離婚の裁判が終われば裁判所が発行するので、これを離婚届に添付します。書類の名前は裁判の種類によって少しずつ違います。
- 調停離婚:調停調書の謄本
- 審判離婚:審判書の謄本と確定証明書
- 和解離婚:和解調書の謄本 ※裁判所の「和解」で離婚が決まった場合です
- 認諾離婚:認諾調書の謄本 ※相手が裁判に欠席したり離婚を争わなかった場合
- 判決離婚:判決書の謄本と確定証明書
なお「確定証明書」とは判決や審判が確定したことを証明する書類です。裁判所で発行手続が必要なので忘れないようにしましょう。
2.離婚届の提出先
(1)提出先の種類
離婚届の提出先は、夫婦の本籍地、または住所地・所在地の市町村役場です。必ずしも本籍地で届ける必要はありません。
この3つの場所の違いは、次のようになっています。
- 本籍地:夫婦の戸籍が本籍地として届け出てある場所
- 住所地:住民票を置いている場所
- 所在地:現在住んでいる場所や一時的な居所
(2)どこに届け出たらいいのか
どこの役所に届け出ればいいのか迷うかたも多いと思いますが、基本的にどこを選んでも戸籍の手続自体に変わりはありません。
ただ本籍地以外の役所で届け出る場合、若干の手間がかかるという違いがあります。
まず、本籍地以外の役所に届け出る場合は戸籍謄本が必要です。戸籍謄本は本籍地の役所以外では取得できないので、直接取得しに行くか、郵送で取り寄せる必要があります。
また、新しくなった戸籍が取得できるまでに、本籍地の役所に届け出た場合でも数日から1週間程度の日数がかかります。本籍地以外の役所に提出すればさらに数日かかることがあります。
もしも急いで新しい戸籍が必要な場合は、所要日数をよく考慮に入れておく必要があります。
3.離婚にまつわるその他の手続
離婚届を提出すれば夫婦は離婚できますが、離婚に伴うさまざまな手続も必要です。主に必要となるのは次のような手続です。
(1)離婚後の姓について必要な手続
離婚の際に称していた氏を称する届(戸籍法77条の2の届)
結婚の時に変わった姓を離婚後も続けて使いたい場合は、離婚届以外に別途こちらの届が必要です。届出先は離婚届と同じく、本籍地・住所地・所在地のいずれかの市町村役場です。
離婚届と同時に届け出ると、姓が結婚前の旧姓に戻ることなく、新たな戸籍が作られることになります。
同時に届出なかったときはいったん旧姓に戻り、離婚の日から3ヶ月以内経過すると家庭裁判所の許可を得なければ姓が変えられません。
離婚届の後、元の姓に戻るかどうか迷っているかたは、3ヶ月の期間に注意をしながら、結論をだしましょう。
(2)生活にかかわる手続
住民票の移転等の手続
住民票の移動(住所変更や転居届・転入届)、印鑑登録、健康保険・年金等の手続など、生活周りの手続が必要となります。子供がいる場合は児童扶養手当、児童手当、保育園や学校の手続等も必要です。
年金分割
離婚前に夫が厚生年金に加入し妻が専業主婦だったような場合、夫がこれまで支払った保険料の一部を、離婚後の妻が将来受け取る年金額に反映させることができます。
年金事務所で手続をしなければいけませんので、忘れないようにしましょう。
(3)子供の手続
離婚届で自分を親権者と指定して新たに戸籍を作っても、子供は元の戸籍にとどまったままで、別れたままです。自分の戸籍に子供を入れるためには別途手続が必要となります。
離婚届を出しただけで安心せずに、子供のための手続を行いましょう。
少し複雑な手続ですが、家庭裁判所に「子の氏の変更許可」の申立を行い、許可を得た後に、市町村役場に「入籍届」を行う必要があります。
子の氏の変更許可の申立
離婚後に、親と子供を同じ姓にする許可を得る手続です。離婚後も姓を変えなかった場合にも必要な手続なので、忘れずに必ず裁判所への申立を行いましょう。
申立は子供の現在の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。子供が15歳未満の場合は親権者が法定代理人として申立手続を行います。
必要書類:申立書、子供本人の戸籍謄本、親の戸籍謄本(いずれも離婚後の新たな戸籍)
入籍届
離婚後に新たに作った親の戸籍に、子供を入籍させるための手続です。
入籍する子の本籍地・届出人の住所地または所在地の市町村役場に届出を行います。この場合も子が15歳未満の場合は、親が法定代理人として手続を行う必要があります。
必要書類:入籍届書、氏の変更許可の審判書の謄本
※親と子の本籍地が同じ場合は戸籍謄本は不要
4.離婚届不受理申出について
前にも触れましたが、夫婦の一方が勝手に離婚届を提出してしまう場合があります。安易に署名した場合だけでなく、署名そのものを偽造するケースもあります。
このような場合でも、書類が整っていれば離婚届は受理され、手続が行われてしまいます。もちろん後から離婚の無効・取消などの手続も可能ですが、戸籍には誤った記載がしばらく残り、元に戻すには裁判所の調停や裁判などが必要になります。
このようなトラブルを防止したい場合は、「離婚届不受理申出」を行っておくことがとても有効です。
(1)離婚届不受理申出とは
離婚届不受理申出とは、自分の意思に反して離婚届が出されないように、自分が窓口に来ない限り、離婚届を受理しないように申し出る制度です。
届出は原則として本籍地で、住所地でも受付されます。
必要書類:届出書、本人確認資料、認印
(2)申出の注意点
申出を行っても、もし先に離婚届が受理されていたら、離婚手続は止められません。もし相手が不穏な動きをしていたら、急いで申出をしておきましょう。
またこの申出制度では本人確認が重要視されていています。代理人による申出や郵送の手続は原則できません。本人確認の資料がなければ役所は受理してくれませんので、役所に赴くときにはきちんと資料の有無を確認しておきましょう。
なお、以前は有効期間の定めがありましたが、現在では申出人が取り下げない限り申出は有効のままです。もし後日、夫婦で話し合いを重ねて離婚をすることになった場合でも、相手方が手続を行うと離婚届が受理されません。届出が不要になったときは取り下げをしておきましょう。
おわりに
離婚にかかわる一連の手続は、少々複雑で種類や書類の提出先もさまざまです。滅多に用のない裁判所に足を運んだりすることもあり、気力や体力を使ってしまうかもしれません。
しかしそれだけ離婚という手続が夫婦の後の人生を左右する、とても重要な手続であること現れではないかと思います。
とても根気のいる作業となりますが、どんな複雑な手続でも、1つ1つ順を追って手続を積み重ねていけば、必ず最後まで解決することができることでしょう。