協議離婚は、双方が離婚の合意に至れば離婚届を役所へ提出するだけでできます。
しかし、子どもの親権や養育費、財産分与などの取り決めは、届け出とは別に離婚協議書の中で具体的に取り決める必要があります。
今回は協議離婚の中で特に要となる「離婚協議書の作成」について焦点を絞って紹介したいと思います。
まずは話し合う
どのような理由にしても離婚に踏み切ることを決断した場合、円滑に手続きを進めるために今後の見通しを決めなければなりません。
最低限検討しなければならないものは大きく分けて以下の3つになります
まず、双方に離婚の意思があるかを確認する必要があります。
離婚は
ことによって成立します(民法765条)。
役所の運営上、離婚届の記載漏れがないか確認した上でこれを受理すれば離婚は確かに成立しますが、離婚意思の有無を書面に残さず曖昧なままにしてしまうと、相手がその後「届け出が受理される前に離婚の意思を撤回した。」などと主張し裁判をおこす余地を残してしまうことになります。
続いて、これまで夫婦で築いてきた財産をどのように分け合うかもしっかり話し合いましょう(財産分与)。
またこれとは別に、離婚する原因が相手にある場合は、被った苦痛や損害を金銭に代えて相手に請求することも出来ます(慰謝料請求)。
最後に、子どもが独り立ちするまでお互いどのように養育に関わっていくのかも検討しましよう。親権、面会交流、養育費の分担等が挙げられますが、離婚協議事項として法律で規定されています(民法766条)。
財産分与・慰謝料などお金に関する取り決め
財産分与の際に清算の対象となるのは、預貯金(解約時にお金が戻る生命保険も含みます。)、不動産、有価証券・投資信託、会員権、価値の高い美術品等、電化製品や家具、退職金、年金、医師や弁護士などの資格(相手の収入に支えられて資格を取得した場合)などが考えられます。
まず話し合いをする前に、離婚で財産分与請求する側は、上記で挙げた相手が所有している財産の状況をしっかり把握しておきましょう。
特に、離婚相手名義の預貯金であれば銀行・支店・口座番号・金額を、不動産であれば正確な所在地を、有価証券であれば、銘柄や数、取り扱っている証券会社を必ずチェックしておきましょう。
ただし、原則として結婚前にすでに自分でためておいた財産、一方が親から相続した財産などは財産分与の対象になりません。
財産分与には、婚姻中に共同で築いた財産を清算するという意味に加えて、離婚によって生活できなくなる者の暮らしの維持を図る補充的なもの(扶養的財産分与)、後述する慰謝料とは別に離婚による精神的損害の賠償をするもの(慰謝料的財産分与)があります。
請求する側はこれらを総合考慮して財産分与を請求しましょう。
離婚届が受理されてから2年以内であれば離婚後の請求も可能です(民法768条)。
慰謝料は、離婚に至るまでに浮気や暴力などで被った身体的・精神的損害、あるいはそれらの行為で離婚せざるを得なくなった精神的損害について支払われるもので、責任がある方の配偶者がこれを支払います。
財産分与とは法律上別のものとして規定されており、浮気や不倫などの不貞、暴行・虐待など民法上の不法行為に当たる責任が相手にあって初めて請求できるものです。
なお、性格の不一致だけを理由に慰謝料を請求するのは非常に難しいと思われます。
また、こちらは離婚後3年以内であれば請求できます(民法724条)。
財産分与・慰謝料の額が決まれば、次は支払い時期、金額、方法を具体的に決めましょう。
可能であれば分割にせず、一括して支払ってもらうようにしましょう。離婚して別々に生活を始めれば、たとえ法律上の義務があっても履行しない、または遅滞することが予想されるためです。
親権、養育費など子どもに関する取り決め
親権は子どもの世話や教育をする身上監護権と、子どもの財産を管理したり子どもに代わって法的行為を行う財産管理権に分かれます。
民法766条1項で規定されている通り、「協議で定め」、「子の利益を最も優先して考慮」しなければなりません。
どちらが親権者になるか決められない場合は申し立てにより家庭裁判所が親権者を決めることになります。
また親権は上記2つの権限を別々に分けて考えているので、親権者のほかに監護者を定めることもできます。経済的な理由でやむなく子どもの親権は相手に譲ったが、どうしても自分のもとでしつけをしたいのであれば、自身が監護者になるといったことも可能です。
裁判離婚の場合の基準ですが、親権者となる決定基準として、子どもを育てるための心身の健康状態、子どもと接する時間の有無、子どもの年齢や事情、経済力、離婚の際の責任の有無等が挙げられます。
過去に家庭裁判所で扱われたケースとして母親が親権者や監護者になる場合が圧倒的に多いですが、これら事項を応用して親権が自己にあることの正当性を主張しましょう。
親権者や監護者にならなかった側が、離婚後に子どもと会って数時間なり数日間一緒に時間を過ごしたりすることを面接交渉といいます。
夫婦が離婚して他人になったとしても、親子関係までも絶たれるわけではないので、よほどの事情がない限り、子どものためにも認められます。
協議でこれを取り決める際は、月に何回会うのか、日時を決めるのは誰なのか、場所はどこにするのか、日時や場所の変更は可能か、連絡方法など、実際に面接交した場合の取り決めを事細かに書面にしておきましょう。
子どもの養育費は一般的に親権者となって子どもを引き取る側が相手に対して請求するものです。
あくまで子の代わりに請求するものですので、親権者となった親自身のために相手からもらえるお金ではないことに注意しましょう。
また離婚して親権もないからといって、子どもの養育費の支払いを拒否したり額を極端に少なくすることも認められません。
養育費の支払いは、一般的に月払いが多く、期間も長期にわたるので、支払いが滞ったりするトラブルも目立ちます。
取り決めた事項は後述の公正証書にすることをおすすめします。
離婚協議書のサンプル
離婚協議書
○○(以下,「甲」という。)と●●(以下,「乙」という。)は,本日次の通り合意したので、本書を二通作成し各自一通ずつ保存する。
第1条(離婚の合意)
甲と乙とは、協議離婚することおよび甲乙は離婚届用紙に所要事項を記載し署名押印の上その届出を甲に託し、甲が直ちにその届出を行うことを合意した。
第2条(親権者の定め)
甲乙間の未成年の子××(平成○年○月○日生、以下「丙」という)の親権者及び監護者を甲と定める。
第3条(養育費等)
- 乙は甲に対し、丙の養育費として平成○年○月より丙が20歳に達する日の属する月まで、1か月○万円を毎月末日限り、丙名義の○○銀行○○支店普通預金口座○○に振り込む方法により支払う。
- 丙の病気等による入院費用等の特別な費用については、甲乙が協議の上、別途乙が甲に対し、その必要費用を支払うものとする。
- 甲と乙は、相互に、転職や再婚、養子縁組その他、養育費の額の算定に関して影響を及ぼす虞のある事由が生じた場合には、速やかに相手方に通知するものとし、必要に応じて、別途協議できるものとする。
第4条 (解決金・慰謝料・財産分与)
乙は、甲に対し、本件離婚に伴う財産分与として、金○○万円の支払義務のあることを認め、これを平成 年 月 日限り、甲名義の××銀行○○支店普通預金口座××に振り込んで支払う。振込手数料は乙の負担とする。
第5条(清算条項)
甲、乙及び丙は、甲と乙の間及び甲と丙との間には、この離婚給付等契約公正証書に定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相互に確認する。
プロに頼むといろんな面で安心できる
これまで紹介したものは弁護士に依頼せずとも当事者同士の話し合いで成立します。
ですので、わざわざお金をかけてまでして弁護士に依頼しなければならないものではありません。
しかし、夫婦同士だけですと、前述した検討事項を当事者同士で話し合ったもののお互い冷静に話し合うことができず、離婚訴訟に移行してしまうことも考えられます。
そうなると結局弁護士を雇わなければならず、かえって時間と費用と労力がかかってしまうことになりかねません。
さらに、煩雑な離婚手続きをプロに全て任せることで、心理的負担を大きく軽減できます。
離婚協議に至るまでにひどく傷ついた状態で、離婚後のライフプランを見据えてどんな社会保障があるのかを考慮にいれつつ、相手の心ない一言や心理的駆け引きをかいくぐり、自己に有利な条件を引き出して合意に至るのはやはり並大抵のことではありません。
相手にしてみても第三者と交渉する方が、冷静に話し合える余裕が生じやすくなるかと思います。
またプロに依頼することで、解釈の余地がない法的に意味のある文を構成してもらえることもメリットでしょう。
協議書の法的効力の解釈をめぐった紛争を未然に防ぐことができます。
離婚協議書を公正証書にするメリットと方法
離婚協議書を作成したものの、相手方が慰謝料を支払わないなどせっかく取り決めた約束を守ろうとしない場合も考えらます。
催促してもこれに応じないのであれば、最終的に裁判で権利を認めてもらって、それから義務を果たすよう請求するしかありません。
しかしこれでは労力・時間・お金がかかりすぎて煩雑です。また敗訴で権利実現が不可能になるリスクも考えられます。
このような事態に備えて離婚協議書を公正証書にするのは非常に得策といえます。
公正証書とは、公証人が当事者の申立てに基づいて作成する公文書で、一般の文書より高い証明力を有しています。
万一相手方が協議書に書いてある約束を果たそうとしない場合でも、裁判をすることもなく強制執行ができるので、簡易迅速確実な権利実現が望めます。
公正証書作成までの手順として、証人2人以上の立会いのもと、本人が公証人役場へ出向き、公証人に作成してもらいた公正証書の内容を説明し作成してもらうというのが大まかな流れになります。
公正証書は公証人役場でしか作成できないので、最寄りの公証人役場がわからない場合は日本公証人連合会(03-3502-8050)に問い合わせてみましょう。
公正証書作成の手数料は財産分与や慰謝料の多寡で変わりますが、一般的に数万円程度かかります。
まとめ
相手が離婚に応じてくれない、離婚することに合意でも離婚する際の条件について話が一向にまとまらない、自分がどうしても離婚したくないなど、当事者の話し合いでどうしても解決できなければ、裁判所を交えた離婚手続きに移りましょう。
裁判所を交えた離婚手続をすると、まず専門家が当事者の間を取り持つ離婚調停を経ることになりますが(家事調停前置主義、家事事件手続法257条1項)、これについてはこちらの記事で紹介していますので、参考にしてみてください。