「離婚は結婚の数倍のエネルギーを使う」などと耳にすることがあります。大変でも構わない、どうしても別れたい、多少の苦労は覚悟の上、という方もいらっしゃるでしょう。しかし、苦労をし過ぎてしまったために、新たな人生を歩むエネルギーまで使い果たした...ということになっては、元も子もありません。
順調な人生の再出発、そしてその後の生活を充実したものにするために、まずは十分に作戦を練り、事前に準備を整えることが大切です。
ひとまず別居してみる
配偶者との関係が悪化し、話し合いもままならない、というような場合は、ひとまず別居してみることが効果的です。相手と離れて、一人で考える時間をもてば、今後の方向性を冷静に検討することができます。
また、配偶者から暴力を受けている場合は、身の安全を守るためにも、別居をするのがよいでしょう。親戚や知人を頼るのもよいですし、もし頼れる人がいないのなら、都道府県に設置された配偶者暴力相談支援センターや警察に相談して、保護を求めることもできます。
別居は、法律的な意味合いをもってくることもあります。民法770条1項各号には、法律上の離婚原因が定められています。
別居そのものは、法律上の離婚原因ではありません。しかし、別居期間が相当長期間にわたっていることは、夫婦の関係が修復しようもなく悪化していることを示していると考えられるため、第5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたると評価されます。
どのくらいの期間が「相当長期」といえるかは、夫婦の年齢や同居していた期間などの事情をもとに個別に判断されますが、おおよそ7~8年とされています。
離婚後の生活の目処は立っているか
婚姻中の生活費を配偶者の収入でまかなっていた場合は、離婚後どうやって生活を維持していくかを考えておかなければなりません。特に、子どもがいる場合は、将来的に教育費がかかることも考慮しなければなりません。
もちろん、仕事をして生活費を稼ぐことができればそれにこしたことはありませんが、なかなかうまくいかない場合もあるでしょう。
そこで、離婚後の生活のために考えておくべきお金の問題について解説します。
(1)財産分与
財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に協力して形成した財産を離婚に際して分与することをいいます(民法768条、同771条)。本来は財産の清算を目的として行われるものですが、離婚後の扶養としての意味もあります。
財産分与の対象となる財産は、「婚姻期間中に夫婦が協力して形成した」といえる財産です。これを「共有財産」といいます。共有財産にあたるかどうかは、名義を問わず実質的に判断されるので、例えば居住していた不動産が配偶者の単独名義であったとしても、婚姻期間中に夫婦が協力して取得し、維持してきたといえるのであれば、共有財産と判断されます。
財産分与で注意すべき点は、離婚したときから2年以内という請求期限が設けられていることです(民法768条2項ただし書き)。うっかり期限を過ぎてしまわないようにしましょう。
(2)慰謝料
離婚によって精神的苦痛を受けた人は、相手に対して慰謝料を請求することができます(民法709条、同710条)。典型的なケースとしては、配偶者が不倫していた場合、配偶者から暴力を受けていた場合があります。
慰謝料の金額は、夫婦のどちらに非があるか、精神的苦痛の程度、婚姻期間、支払能力、未成年者の子どもの存在、扶養の必要性などの事情を考慮して、ケースバイケースに判断されます。
(3)養育費
養育費とは、未成熟子が社会的自立をするまでに必要となる費用です。子どもの養育に必要な費用は、親権や同居の有無とは関係なく、親が負担しなければならないものです。
養育費の金額は、両親の収入や財産、離婚までに子どもの養育にかかっていた金額、今後の見通しなどを考慮して決定されますが、家庭裁判所の養育費算定表が参考資料としてよく使われます。これは、父母双方の収入及び子どもの人数をもとに金額を算定するもので、裁判所のホームページで公開されています。
(4)年金分割
年金分割制度とは、離婚後に片方の配偶者の年金保険料の納付実績の一部を分割し、それをもう片方の配偶者が受け取れるという制度です。
例えば、夫が会社員として働き、妻は専業主婦という家庭では、厚生年金保険料を支払うのは夫ですが、家事を担う妻も、夫へのサポートを通じて年金保険料の支払いに貢献していると考えられます。そこで、年金保険料の支払に貢献した以上は、その分を受給額に反映させることが公平であるべきだとして、この制度が導入されました。
年金分割は、離婚後2年以内に請求しなければなりません。財産分与と同様に、うっかり期限を過ぎてしまわないように注意が必要です。
相手が応じない場合には
離婚を切り出したとき、相手はどんな態度に出るでしょうか。相手も結婚生活に不満をもっていて、即座に離婚に応じてくれることもないわけではないでしょうが、どちらかといえば、相手にとっては、寝耳に水である場合が多いように思います。
少し考える時間が欲しい、と言われたら、それには応じてあげるべきではないかと思われます。
しかし、考えるまでもなく絶対応じない、または考えてみたけどやはり応じられない、という場合は、どうすればよいでしょうか。
まずは、相手の言い分を聞くことが大切です。離婚に応じたくないのには、何か理由があるはずです。理由を聞き出すことができれば、それに見合った条件を出すことで、離婚に応じてくれるかもしれません。
例えば、「離婚後の生活に経済的な不安がある」というのであれば、生活費の援助を申し出たり、財産分与の取り決めをしたりすることができます。また、「子どもに会えなくなるのがつらい」というのなら、面会のスケジュールをきちんと決めておけば大丈夫です。
話し合いには時間がかかるかもしれません。また、つい感情的になって話がこじれてしまうこともあるでしょう。そんな場合は、親族や友人・知人などに相談するのも一つの方法です。特に、同じように離婚を経験した人の話は、参考になることも多いでしょう。
相手が離婚に応じてくれれば、あとは離婚届を役所に提出すれば、離婚が成立します。このように、夫婦の合意によって離婚する方法を協議離婚といいます。協議離婚のメリットは、裁判所を利用する手続きに比べて、費用がかからないことです。
ただ、離婚を急ぐあまり、財産分与や慰謝料などについてきちんと取り決めをしないまま別れてしまうと、あとでトラブルが再燃する危険があります。
相手がどうしても応じてくれない場合や、財産分与や慰謝料などの条件面について不安があるときは、裁判所を利用した離婚手続きをとることができます。
離婚調停、離婚裁判について
離婚手続きで裁判所を利用するものには、離婚調停、離婚審判、離婚裁判があります。よく行われるのが離婚調停と離婚裁判です。
(1)離婚調停
夫婦間で話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の調停手続きで離婚を目指すことになります。
調停では、裁判官、調停委員という第三者が間に入ります。当事者が交互に調停室に入室して、調停委員に事情や要望を説明しながら話し合いをして解決を目指します。
調停の場では、親権・養育費・面接交流・財産分与・慰謝料・年金分割についても話し合うことができます。
調停で合意に至った場合は、調停調書という書面が作成されます。この書面をもって、役所に届出をすれば、離婚が成立します。
(2)離婚裁判
離婚調停は裁判所を利用するとはいえ、話し合いなので、相手が合意しない場合は不成立になってしまいます。
調停が不成立となったときは、家庭裁判所に離婚裁判を起こすことができます。離婚の請求と合わせて、親権・養育費・面接交流・財産分与・慰謝料についても請求することができます。
法律上の離婚原因が存在することが認められれば、離婚を認める判決が言い渡されて、手続きは終了します。
裁判でも、裁判官から和解案が提示されて話し合いがなされることも多く、当事者双方が合意すれば、和解が成立して手続きは終了します。
おわりに
現在は結婚したカップルの3組に1組は離婚するといわれており、離婚は身近な問題の一つといえます。
具体的に離婚を考えている方はもちろん、そうでない方も、事前に手続きへの理解を深めておくことはとても大切です。
特に、お金の問題は重要です。離婚で不幸にならないためにも、作戦と準備を十分に整えておきましょう。