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私的録音録画補償金

 iPodをはじめとするデジタル音楽プレーヤーの流行はめざましいものがあります。先日、業界大手のアップルコンピュータが有料音楽ダウンロード販売サービスの日本版を開始し、一段と注目が集まっています。さらに、携帯電話に音楽をダウンロードして楽しむ人が増えたりと、音楽の販売モデルがこれまでの「CD1枚いくら」から「1曲いくら」に変化しつつあります。また、高速インターネット網の発達によって、今後はテレビ番組や映画もダウンロードして楽しむことが可能になるでしょう。
 こうした音楽や映像の視聴形態や流通形態の変化は、著作権者の保護のあり方にも影響を及ぼしつつあります。今回は、私的録音録画補償金という切り口からこの問題を考えてみたいと思います。

私的録音録画補償金とは?

 私的録音録画補償金は、平成5年に設けられた制度(録画については平成11年から)で、著作権法30条2項及び104条の2以下に規定されています。同法30条2項

「私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器(中略)であって政令で定めるものにより、当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であって政令で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。」

と規定しています。これは、私的使用のための複製を認めている同条1項の例外として、デジタル機器による複製の場合には、複製者は補償金を支払わなければならないとしているのです。

 しかし、多くの人は、自分が録音・録画するときに、著作権者に個別に補償金を支払った記憶はないと思います。その理由は、補償金の支払の特例について定めた同法104条の4にあります。同条は、政令で指定された録音・録画機器とその記録媒体の購入者は、その購入時に、補償金を一括で支払わなければならないと規定しています。つまり、私たちは録音・録画機器とその記録媒体を購入する際に、製品代金に補償金を上乗せしてお金を払っていることになります。その対象となっているのは、DAT(デジタル・オーディオ・テープ)、DCC(デジタル・コンパクト・カセット)、MD、CD-R、CD-RW、D-VHS、DVカセット、DVD-R、DVD+R、DVD-RW、DVD+RW、DVD-RAMとこれらを使って録音・録画できる機器です。量販店などで「for Music」「for Video」と書かれたCD-RやDVDが「データ用」と書かれたものよりも高く販売されているのは、この補償金が上乗せされているためなのです。
 このようにして徴収された補償金は、私的録音補償金管理協会私的録画補償金管理協会を通じて権利者に配分され、その額は、録音補償金が約23億4000万円、録画補償金が約14億8000万円(いずれも2004年度)となっています。

海外の制度

 海外においても、私的録音録画補償金と同様の制度が設けられています。導入が最も早かったのは、西ドイツ(当時)で、1965年に導入されています。その後、ヨーロッパを中心に導入が進み、現在、20か国ほどがこのような制度を導入しています。しかし、イギリスは制度を導入しておらず、また、アメリカも私的録画については補償金制度を設けていません。

 海外の制度と比較すると、日本の制度はデジタル方式の録音・録画機器や記録媒体のみを対象としている点、支払義務者がメーカーではなく機器等の購入者とされている点が異なるとされています。

私的録音録画補償金の問題点

 私的録音録画補償金制度の問題点は、大きく分けて、1. 制度そのものの問題点と、2. 補償金を機器等の価格に上乗せして徴収するという方法についての問題点に分けられます。

 まず、1. 制度そのものの問題点としては、私的録音録画補償金の前提となる、私的使用のための複製について法がどのような立場に立っているのか不明確になっている点が挙げられます。現行法は、30条1項で私的使用のための複製を認めたうえで、例外的に2項でデジタル方式の録音・録画の場合に限って、補償金を支払うように定めています。その理由として、デジタル方式の場合は録音・録画による劣化が起こらず、オリジナルと全く同じコピーが作成され、権利者が害されることが挙げられます。しかし、書籍や絵画もコンピュータで作成されるようになり、そのデータの完全なコピーが行われるようになった現代において、音楽や映像の著作権者のみを特に厚く保護する理由が明確でないともいえます。
 逆に、著作権者の保護の見地から、私的使用のための複製が原則として許されないという立場に立つのであれば、海外の制度のように、複製方式がデジタルであるとアナログであるとを問わず、また、対象を限定することなく補償金を徴収すべきことになります。

 次に、2. 補償金の上乗せ徴収方式についての問題点としては、上乗せ徴収方式そのものの合理性が3つの側面から問われています。
 第1に、本来、補償金はどのような著作物を何回複製したかによって決定されるべきといえます。しかし、複製の対象や回数を権利者が直接把握することが困難であることから、機器や記録媒体の売上からこれを間接的にこれを把握し、補償金を徴収することでこれに代替しようとしたのが上乗せ徴収方式です。確かに、制度導入当時は補償金を支払って作成されたコピーであるか否かを区別することは困難でしたが、現在では、このような区別も技術的に可能になりつつあります。事実、冒頭で挙げたアップルのサービスや携帯電話向けの音楽配信サービスでは、ほかの機器への楽曲の複製は不可能とされています。
 第2に、機器や記録媒体に対する上乗せ徴収とすると、私的複製を目的としないそれらの機器や記録媒体の利用の場合にまで補償金の支払を強いられることになるという問題もあります。この点については、著作権法104条の4第2項が補償金の返還についての規定を置いていますが、複製目的でないことを購入者の側で証明し、管理団体に請求しなければならないため、返還額が比較的少額であることとも相まって、利用されていないのが現状といえます。
 第3に、現在、iPodなどのデジタル音楽プレーヤー本体を補償金徴収の対象とする議論がなされています。しかし、これが実現した場合、1曲(1アルバム)単位で課金される音楽配信サービスの料金には、補償金に相当する権利者に対する対価も含まれており、さらに補償金をプレーヤー本体にも課すことは二重課金になるのではないかとも指摘されています。

権利者の保護と技術革新

 私的録音録画補償金に関する議論は、技術革新を背景に音楽や映像を様々な形で楽しむ方法を提供することで利益を得てきた機器メーカーと、そうした技術革新によって従来のビジネスモデルを迂回されたために、得られるはずであった利益を奪われたと主張する権利者の間でなされてきました。

 現在、政府の審議会では、iPodなどのデジタル音楽プレーヤーを補償金徴収の対象とすることに加え、パソコン内蔵又は外付けのハードディスクドライブ、データ用CD-R/RW、データ用DVD-R/RWといった汎用機器・媒体も対象に加えるべきか否かについて権利者と機器メーカーが対立しています。権利者側は、パソコンが音楽や映像のコピーに使われており、メーカーもそのことを宣伝の中心に据えているという点を重視しているのに対し、メーカー側は、パソコンはそれ以外の用途にも使われているのであり、補償金徴収の対象とすることは、必要以上に大きな網をかけることになると反発しています。
 両者の対立は、技術革新に対する楽観論と悲観論の対立と言い換えることができるかもしれません。メーカー側は、技術革新によってコピーを制限し、著作権を保護することができるようになるから、補償金制度を廃止して、コピーの都度、権利者に直接、個別に対価を支払う方式に移行すべきだと主張するのに対して、権利者側は、技術革新によってコピーの方法は多様化するのであるから、包括的に補償金の対象に指定しなければいずれ「抜け道」が造られてしまい、権利者の利益が奪われると主張しているからです。

 映像、音楽、出版といったコンテンツ産業が発展していくためには、製作者に労力に見合った対価が与えられることが不可欠であり、そのためには著作権をはじめとした権利を保障することが必要といえます。他方で、コンテンツの利用方法・流通方法が多様化する中で、現行の法律が時代に追いつけなくなっていることも事実です。権利保護と利用・流通促進の調和をいかに図っていくかが今後の課題となりそうです。

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