一、なぜ国民年金制度が問題となっているのか
近年、年金制度に対する国民の不信が非常に強くなっています。それは、年金財政が厳しくなり、年金に加入している人が、老後に年金をもらえるという確信が持てないからです。
年金財政を厳しくしている背景には、少子高齢化、若者の年金離れがあります。また、国会議員の年金未納問題や年金保険料の無駄遣いも年金制度に対する不信をさらに強める要因となっています。
このような、年金制度に対する不信を解消するために、国会でも年金制度の改革について多くの議論がなされています。
そこで、今回は年金制度のうち、全国民共通の基礎年金である国民年金制度について取り上げることとしました。
二、国民年金制度の仕組み
国民年金制度の目的は、老齢、障害または死亡によって国民生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止し、健全な国民生活の維持および向上に寄与することです(国民年金法1条)。この目的を達成するために、国民の老齢、障害または死亡に関して必要な給付が行われています(国民年金法2条)。
国民年金法7条により、国民年金には、20歳から60歳未満のすべての人が加入しなければなりません。加入者は、第1号被保険者、第2号被保険者、第3号被保険者の3種類に分けられます。
まず、自営業者、農業や漁業に従事している方を第1号被保険者といいます。これらの方は、保険料を自分で納める必要があります。
次に、会社などに勤め、厚生年金保険や共済組合に加入している方を第2号被保険者といいます。これらの方は、厚生年金保険や共済組合が加入者に代わって国民年金に必要な費用を負担しているので、保険料を直接納める必要はありません。
配偶者で厚生年金保険や共済組合に加入している方によって扶養されている方を第3号被保険者といいます。これらの方も、第2号被保険者と同様、保険料を直接納めることはありません。
平成17年4月より、加入者は、国民年金の保険料として、月額1万3580円を納付する必要があります。
年金財源を調達する方法としては、積立方式と賦課方式とがあります。積立方式は、将来の年金給付に必要な原資を事前に積み立てるというものです。他方、賦課方式は、給付に必要な費用をそのときの加入者からの保険料でまかなうというものです。
現在の国民年金制度は、賦課方式を基本としています。
国民年金の老齢基礎年金は65歳から受けることができます。ただ、本人の希望により、66歳から70歳までの希望するときから年金を受けることも可能です。この場合、年金額は、65歳から受ける年金額よりも増額されることになります。増額率は、65歳になった月から繰下げの申し出を行った月の前月までの月数に応じて、1ヵ月増すごとに0.7%ずつ高くなります。つまり、繰下げの請求を行う月によって増額率は異なります。なお、昭和16年4月1日以前に生まれた方は、66歳で受け始めた場合は12%、67歳では26%、68歳では43%、69歳では64%、70歳では88%の増額となります。
三、諸外国の国民年金制度との比較
まず、公的年金制度の対象者について、日本では、前述のとおり、20歳から60歳未満のすべての人が強制的に加入することになります。
アメリカおよびカナダでは、一定以上の収入のある被用者、自営業者は強制加入となります。無職者は加入できません。イギリスでも、一定以上の収入のある被用者、自営業者は強制加入となりますが、低所得者および無職者は任意に加入することができます。ドイツでは、一定以上の労働時間・収入のある被用者および特定業種の自営業者は強制加入となります。他の自営業者および無職者は任意に加入することができます。フランスおよびスウェーデンでも、被用者、自営業者は強制加入となり、無職者は任意加入となります。以上に対して、ニュージーランドでは、全居住者が対象となります。
次に、社会保険方式(加入者から徴収した保険料を財源として年金給付を行う方式)と税方式(税によって国が一律に年金を支給する方式)との比較について、日本、アメリカ、イギリス、ドイツでは、社会保険方式を採用しています。ニュージーランドでは、税方式を採用しています。フランス、スウェーデン、カナダでは、社会保険方式が基本ですが、一部について税方式を採用しています。
年金資金の調達方法については、日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデン、カナダでは、賦課方式を採用しています。
四、実際にどのくらいの人が支払っているのか
国民年金の加入対象者は、平成17年10月現在で7,148万人です(日本国民年金協会資料による)。第1号被保険者は2,154万人、第2号は3,742万人、第3号は1,153万人です。在外日本人等の未加入者は99万人います。
第2号、第3号被保険者は、すべての方が保険料を納付しています。第1号被保険者は、205万人の未納者と505万人の免除者を除いた1,444万人が実際に保険料を納めています。つまり、第1号ないし第3号被保険者のうち、約90%の方が保険料を納めていることになります。
しかし、第1号被保険者だけを考えると、保険料を納めているのは約67%ということになります。
五、未納者に対する強制徴収について
国民年金法88条により、被保険者は、国民年金の保険料を納付する義務があります。正当な理由なくして保険料を滞納すると、社会保険庁から未納者に対して最終催告状が送付されます。催告後も保険料を納付しなければ、社会保険庁長官は、国民年金法96条に基づき、未納者に対して督促状を発することとなります。それでもなお保険料を納付しない者に対しては、社会保険庁長官は、国民年金法97条に基づき、財産を差押えて滞納金を徴収することとなります。このとき、徴収金額について、年14.6%の割合の延滞金が加算されます。
平成16年10月から平成17年3月末の期間で、最終催告状の送付を受けた者は3万1,497人、この時点で納付した者は1万7418人です。未納者の中で、督促状が発せられたのは3,637人、この段階での未納者は2,648人です。そして、最終的に財産の差押が実施されたのは、110人です。
以上のように、未納者に対する強制徴収は実効性に乏しいものとなっています。このような状態では、今後、団塊の世代の方々への年金給付により、年金財源の減少がさらに進行することとなります。そうすると、年金制度への信頼は、ますます低下していくものと思われます。
さて、このような現状を踏まえ、年金制度について皆さんはどのように思われますか。
アンケートに答えていただき、ご意見をお寄せください。
- 「法、納得!どっとこむ」に寄せられた意見を読む(2005年12月6日~2006年1月10日)