一、はじめに
昨今、教員の児童生徒に対するわいせつ行為や体罰などの不祥事などにより、教員への不信感が高まっています。また、科学技術や社会の著しい変化に伴い、終身教員免許の制度に対する見直しの必要性が意識されるようになっています。
このような背景から、(1) 教員としての適格性の確保、および (2) 教員の専門性の確保・維持を目的として、教員免許の更新制度を導入すべきではないかが検討されています。
学校や教員には、子供達のニーズに応じた発展的学習や補充的学習のための条件整備を進め、学力向上に向けた指導を充実させることが求められています。同時に、総合的な学習の時間の展開など各学校で特色を生かした教育が一層求められる中で、今後各教員の専門分野を発揮する機会がさらに増加すると思われます。
一方で、教員資格は、一定の条件を満たせば取得できるというものとなっており、著しい社会の変化に伴った資格制度となっていないのが現状です。
このような背景のもとで、教員免許に更新制を設けるべきとの議論がなされています。そこで今回は、教員免許の更新制について取り上げることにしました。
二、日本の教員免許制度について
教員免許の更新制を論じる前に、教員免許制度について簡単に触れておくことにします。
教員免許制度とは、1949年に制定された教育職員免許法(教免法)に基づく教員の資格制度です。教免法3条1項では、教育職員は、教育職員免許法により授与される免許状を有するものでなければならないと規定されています(免許状主義)。
教員免許状には、
- 普通免許状(終身有効)
- 各分野の優れた知識経験や技能をもっている社会人に与えられる特別免許状(終身有効)
- 普通免許状を有する者を採用することができない場合に限って授与することができる臨時免許状(有効期限3年)
教員の人数は、幼稚園から高等学校まで全国すべての学校において、平成16年5月1日の時点で、109万2,895人です。
三、教員の適格性確保および専門性の向上のための制度
教員の適格性を確保するため、公務員である教員の場合には、国家公務員法、地方公務員法の規定に基づき、
- 条件付採用制度(教育公務員特例法12条、地方公務員法22条)
- 懲戒制度(国家公務員法82条、地方公務員法29条)
- 分限制度(国家公務員法78条・79条、地方公務員法28条)
- 他職種への転職制度(地方教育行政の組織及び運営に関する法律47条の2)
により、不適格な教員を現場から外す制度が設けられています。また、私立学校の教員の場合も、労働基準法の規定の範囲内で懲戒等の処分がなされています。
また、教員の専門性を確保するために、各種の研修や大学院修学休業制度、上位免許状の取得制度などが設けられています。
しかしながら、これらの制度は、現在、必ずしも十分に機能しているとはいえません。
上で述べたように、教員免許は原則として終身有効であり、
- 成年被後見人又は被保佐人となった場合
- 禁錮以上の刑に処せられた場合
- 公立学校の教員が懲戒免職の処分を受けた場合
などに限り、失効することになっています(教免法10条1項)。
また、
- 国立学校又は私立学校の教員が懲戒免職の事由に相当する事由により解雇されたと認められるとき
- 教育職員以外の教員免許保有者が法令の規定に故意に違反し、又は教育職員たるにふさわしくない非行があって、その情状が重いと認められるとき
には、教育委員会はその免許を取り上げることができるとしています(教免法11条1項、2項)。
つまり、これらの場合を除いては、教員としての適格性や専門性に欠ける者であっても、教員となる資格を失うことはないのです。
また、専門化向上のための研修制度は、その内容・方法が画一化されており、教員のニーズに応じた多様な選択ができないという問題があります。
四、教員免許の更新制度について
教員免許の更新制度とは、教員免許に有効期限を設け、更新する際にその適格性もしくは専門性を審査する制度です。
日本では、このような制度はなく、また、免許の有効期限も設けられていません。イギリス、フランス、ドイツもこのような教員免許の更新制度を設けていません。
他方、アメリカでは、ほとんどの州において、教員免許の更新制度を設けています。そこで、アメリカの更新制度がどのようになっているのかを以下で紹介します。
アメリカにおける教員免許更新制度の仕組みは各州によって異なりますが、おおむね共通するのは、大学卒業後各州により予備免許状が発行され、その後一定期間の職務経験や上級学位・必要単位数の取得を要件として、正規教員免許状を発行されることです。
正規の教員免許状には、一部の州で終身免許状制度が採られているのを除いて、一定期間ごとの更新義務が課されています。更新の際の要件としては、大学や大学院での単位取得のほか、教職経験や州・学区の提供する研修機会への参加等が認められています。
例えば、カリフォルニア州では、予備免許状の有効期限は5年であり、その後、正規教員免許状へ更新するためには、
- 学士号取得過程以上の1年間の課程終了あるいは初任教員を対象とする州の支援評価事業の受講
- 薬物教育、コンピューター教育等に関する科目の履修
などという更新要件を満たす必要があります。正規教員免許取得後は、5年ごとに更新義務が課され、その際、150時間以上の現職研修参加及び半年間の教員経験等という更新要件を満たすことが必要となります。
他方、終身免教員許状制度が採用されているニューヨーク州でも、予備免許状取得後、3年以内に正規教員免許状への更新が義務付けられます。その際、3年間の教員経験、修士号の取得等という要件を満たす必要があります。正規教員免許状を取得した後は、更新義務が課されていません。
五、日本における教員免許更新制度の導入の問題点
現在、日本においても教員免許の更新制度の導入が検討されています。中央教育審議会では、平成14年2月21日付「今後の教員免許制度のあり方について」(答申)の中で、教員免許の更新制度について、更新制度の目的を「教員の適格性確保に置く場合」と「教員の専門性向上に置く場合」とに分けてその可能性を検討しています。
そして、更新制度の目的を「教員の適格性確保に置く場合」には、「公務員全体について分限制度がうまく機能しなかったことから(中略)適格性を欠く教員への対処が格段に進む可能性が広がる」が、「現行の教員免許制度において、免許状は大学において教科、教職等に関する科目について所要単位を修得した者に対して授与されるものであり、免許状授与の際に人物等教員としての適格性を全体として判断していないことから、更新時に教員としての適格性を判断するという仕組みは制度上とり得ず、このような更新制を可能とするためには、免許授与時に適格性を判断する仕組みを導入するよう免許制度自体を抜本的に改正することが前提となる」としています。
他方、更新制度の目的を「教員の専門性向上に置く場合」には、「個々の教員がその力量の維持向上のため日々研鑽に努めることになり、教員の研修全体が活性化する」が、「一般的な任期制を導入していない公務員制度全般との調整の必要性等の制度上、実効上の問題がある。また、免許状の一定の資質能力を公に証明するという機能から、現職教員に更新制の対象を絞ることができず、人によって研修内容に差異を設けることにも一定の限界があることから、教員の専門性向上のためという政策目的を達成するには必ずしも有効な方策とは考えられない」としています。
さらに、上で触れられている問題のほかにも、以下のことが問題となると思われます。
まず、教員としての適格性を更新の要件とした場合、特定の思想・信条を有する教員を排除するために用いられたり、画一的な指導をすることが求められるという国家の恣意的な運用がなされるのではないかという問題があります。
また、耐震データ偽造問題を受けて、建築士の資格に更新制を導入することが検討されていますが、医師、弁護士、公認会計士など多くの資格においても現在のところ更新制度が採用されていません。
ある職業について資格を有することが条件となっている場合に、更新制度を事後的に設けると、すでに資格を取得し、それを仕事にしている人にとっては資格取得時にはなかった事由に基づいて職を失う可能性が生じることから、既得権の侵害が問題となります。
また、教員免許に更新制を設けた場合には、他の資格制度との調整を図る必要もあるでしょう。さらに、教員の場合、他の資格に比べて人数が多いことから、更新制の導入による社会的混乱も無視できないものと思われます。
教員の適格性の確保と専門性の向上の必要性について、異論はないと思われます。その目的を達成するために、既存の制度の見直しで足りるのか、あるいは多くの問題を解決してでも免許の更新制を導入すべきなのか、慎重に検討する必要があると思われます。
- 「法、納得!どっとこむ」に寄せられた意見を読む(2006年1月10日~2006年2月7日)