一、なぜ少年法の改正が問題となっているのでしょうか
少年法は少年が犯罪を犯した場合、少年の将来を考え健全に育成するために、刑罰を科するよりも少年の性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分をもって臨むことを原則としています(少年法1条)。少年法は非行などのある少年を社会から締め出すのではなく、少年自身の立ち直る力を信じその援助を目指すことを基本理念としています。
これに対し、昨今少年による凶悪な犯罪が増加し、深刻な社会問題となっています。これにはさまざまな要因が考えられますが、少年法により罪を犯しても成人の刑事事件よりも軽い処遇がなされることが少年事件の凶悪化の重要な一要因であると主張されています。このような背景から、現在刑事処分可能年齢の引下げや厳罰化の方向に向かった少年法の改正が議論されています。
そこで、今回は少年法について皆さんと考えてみようと思います。
二、現行法上、少年が犯罪を犯した場合の手続はどうなっているでしょうか(日本の場合)
日本の少年法では、20歳未満の者を「少年」と規定しています(少年法2条1項)。また、刑法は「14歳に満たない者の行為は、罰しない」としていることから(刑法41条)、「14歳以上20歳未満」と「14歳未満」で手続が変わってきます。
これを受けて、少年法では、
- 罪を犯した(14歳以上の)少年
- 14歳未満で刑罰法令に触れる行為をした少年(触法少年)
- その性格または環境に照らして、将来、罪を犯し、または刑罰法令に触れる行為をするおそれのある少年(ぐ犯少年)
のいずれかに該当する少年を家庭裁判所の審判に付すべき少年としています(少年法3条1項)。
上記のいずれかに該当すると考えられる少年がいた場合、家庭裁判所は、事件を調査し、実際に審判に付するか否かを決定します(少年法8条、19条、21条)。そして、審判開始の決定がなされた場合、家庭裁判所は当該事件を審判し、
- 刑事処分を相当とし、検察官に事件を送致する(有罪となった場合は少年刑務所送致)(20条、40条以下)
- 保護処分(保護観察、児童自立支援施設等への送致、少年院送致)
- 都道府県知事または児童相談所長への送致(18条)
- 不処分(23条2項)
なお、14歳未満の少年の場合は、児童福祉法上の措置が優先され、家庭裁判所に送致された場合でも、少年に対して検察官送致や少年院送致の処分をすることはできません。
三、外国の少年法制と比較してみましょう
少年法の対象年齢について、日本では20歳未満の少年が対象となりますが、アメリカでは18歳未満の少年が対象となります。イギリスでは10歳から17歳の少年が対象となります。ドイツでは14歳から17歳の少年が対象となりますが、例外的に18歳から20歳の準成人も精神的成熟度等により少年に準じた取扱いを受けることができます。フランスでは犯行時に18歳未満の少年が対象となります。ほとんどの国が18歳未満としています。
少年事件を扱う裁判所について、日本では家庭裁判所が担当します。アメリカでは少年裁判所が担当します。イギリスでは原則として青少年裁判所が担当しますが、重罪事件等の場合には刑事法院が担当することになります。ドイツでは少年裁判所は設置されておらず、地方裁判所の少年裁判部が担当します。フランスでは軽微な事件は少年係判事、16歳以上の重罪事件は少年重罪法院、罰金等の処分がなされる事件については違警罪裁判所、その他の事件を少年裁判所がそれぞれ担当します。そのほとんどが成人とは異なった機関が扱うことになっています。
四、少年による犯罪の現状はどうなっているでしょうか
平成16年において、不良行為をした少年は141万9,085人です。内訳は刑法犯少年が13万4,847人、特別法犯少年が6,272人、交通事故に係る業務上過失致死傷等・道路交通法違反が52万9,164人、触法少年が2万592人、その他が1,657人です。刑法犯のうち、(1) 凶悪犯(殺人・強盗・放火・強姦)は1,584人、(2) 粗暴犯(暴行・傷害・恐喝等)は1万1,439人、(3) 窃盗犯は7万6,637人、(4) 知能犯(詐欺・横領・偽造)は1,240人、その他が4万3,947人となっています。
刑法犯で検挙した少年の推移を見てみると、(1) 凶悪犯は、平成2年の1,078人を底に増加に転じ、平成9年から13年まで2,000人を超える状況でした。平成14年には2,000人を若干下回りましたが、翌15年には2,212人となりました。平成16年には2,000人を大きく下回る1,584人という低水準となりました。(2)粗暴犯については、平成12年の1万9,691人を頂点として毎年減少しています。平成16年には1万1,439人となりました。(3) 窃盗犯については平成8、9年は8万人台、平成9、10年は9万人台後半、平成11年、13~15年は8万人台、平成12年は7万人台でした。平成16年は7万6,637人でした。以上の減少傾向に対して、(4)知能犯は、増加傾向にあります。平成7年は505人であったのが、平成16年には1,240人と約2.45倍になっています。
五、少年法改正の議論とその問題点はどこにあるのでしょう
現在少年法の「改正」として検討されている内容は、
- 刑事処分が可能な年齢を20歳から18歳に引き下げること
- 触法少年や虞犯(ぐはん)少年に対する警察官の調査権限を強化すること
- 14歳未満の少年の少年院送致を可能とすること
- 保護観察中の少年が遵守事項を守らなかった場合に少年院送致等を行えるようにすること
など、子どもに対する福祉的な助けを中心とした従来の対応を、監視や厳罰の方向に転換しようとするものです。
1. 年齢の引き下げについて
「最近の少年犯罪は凶悪化しており、保護処分では対応できないほど質的に悪化している」ことが根拠とされています。さらに、諸外国はほとんどの国が18歳以下を少年としていることもその理由とされています。
2. 警察官の調査権限の強化について
触法少年は14歳未満の少年であり、一般に肉体的・精神的に未成熟であると考えられます。そのような少年に対する警察官の調査権限を認めると、少年が警察官の取調べに耐え切れず、虚偽の自白をしてしまうのではないかが懸念されます。
3. 14歳未満の少年の少年院送致について
低年齢で重大事件を起こした少年の多くは、家庭環境に深刻な問題を抱えています。そのような少年に対して必要なのは、家庭環境の改善です。それがなされないまま少年院において矯正教育を行ったとしても、改善効果が期待できないばかりか、「少年院に送致されていた(から、きっとまた悪いことをするに違いない)」というレッテルを貼られることで、少年の更生が阻害されてしまうのではないかという意見もあります(ラベリング理論)。
4. 保護観察中の少年が遵守事項を守らなかった場合に少年院送致等について
保護観察は、保護監察官や保護司が少年との信頼関係を形成しつつ、ケースワークを行いながら、少年の改善更生を図ることを主眼とし、その手段の一つとして遵守事項の設定とその遵守のための働きかけがあります。しかし、遵守事項の遵守を「少年院送致」という威嚇によって確保しようとすると、少年との信頼関係の確保を困難にし、少年の立ち直り支援という保護観察の制度自体の衰退を招くのではないかという意見もあります。
六、同じ方向の議論として少年犯罪の実名公表の問題があります
少年法61条は、家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならないとしています。これに対して、昨今の少年犯罪の凶悪化により、それを抑止するために重大犯罪を行った少年の実名を公表するべきであるという反対意見もあります。この考えに基いて少年の実名報道を実践しているマスコミもあります。
一方で、少年の実名を公表することによって少年に対して著しい社会的制裁が加えられることになり、少年犯罪の凶悪化の抑止につながると考えられますが、他方で、少年の実名が公表されれば、更生したとしても世間から偏見を受けながら人生を送らなければならないという負担を少年に対して強いる結果にもなりかねません。
さて、「あなたは、刑事処分可能年齢の引下げや厳罰化の方向への少年法改正についてどう思いますか。」アンケート(賛成・反対)に答えていただき、積極的に意見をお聞かせ下さい。
- 「法、納得!どっとこむ」に寄せられた意見を読む(2006年2月7日~2006年3月7日)