~精神的治療から身体的治療に移行するための条件とは~
前回、性同一性障害の人が戸籍を変更するには、生殖機能をなくしたうえ、心の性に合わせて性器形成手術を終えていなければならないと説明しました。
しかし、ホルモン治療や性別適合手術は患者の身体の負担も大変大きいもの。
施術にあたって、患者の年齢や体調面はどのように考慮されているのでしょうか。
まず、ホルモン治療と性別適合手術は、本人の望む順番や組み合わせで行われるべきであり、戸籍の性別変更の観点からいえば、必ずしもホルモン治療を受ける必要はありません。
ただ、日本精神神経学会の定めたガイドライン第3版によれば、ホルモン治療を受ける者も性別適合手術を受ける者も、できる限り「身体的治療に移るための条件」は満たしておくべきとされています。
その条件とは、
- 性別違和の持続
精神科治療を経てもなお身体と心の性が一致せず、そのことで強い苦悩を感じ続けていること。 - 実生活経験
本人の望む新生活について十分な検討ができており(周囲の好奇の目への耐性、仕事や学校の具体的な見通しも含む)、その生活で安定した適合感が得られること。 - 身体的変化に伴う状況的対処
身体的変化に伴う心理的、家庭的、社会的困難に対応できるだけの準備が整っていること。カムアウトして周囲の助けを得られるか、カムアウトしない場合は自らの能力のみで乗り切れるかといった点もポイント。 - 予測不可能な事態に対する対処能力
予期しない事態に対しても現実的に対処できるだけの現実検討力を持ち合わせているか、または精神科医などの専門家等に相談して解決を見出すなどの治療関係が得られること。
衝動的に身体的治療へ移行したり、自傷行為・薬物依存・自殺企図に走ったり、「死ぬ」などと脅して周囲を思い通りに動かそうとしたりしない、葛藤や不安に対する耐性が必要とされる。 - インフォームド・デシジョン(Informed Decision)
身体的治療による身体的変化や副作用について、少なくとも重要部分に関しては説明を受けて十分に理解し、同意していること。 - 希望する身体的治療を施行するための条件を満たしていること
身体的な治療は不可逆的であるだけに、治療への理解に加え、かなりの比重で精神力の強さが重視されているのが印象的です。
性の変更がそれだけ過酷な治療であるという見方もできると思います。
次回は、ホルモン治療と性別適合手術、それぞれの適応患者の違いについて説明します。