~保険証の性別表記はどこまで変えられる?~
以前の記事(「性同一性障害者が性別を変更するには?」、「ホルモン治療や性別適合手術を受けられるのはどんな人? 1~3」)でも触れましたが、戸籍上の性別変更には重大な精神的・身体的リスクが伴います。
そのため、性同一性障害者でも戸籍を変更せずに生きる道を選択する人は珍しくありません。
しかし、望まぬ性で生活する苦しみは容易に克服しがたいもの。
その軽減のために、社会はどんな取り組みを始めているのでしょうか?
■保険証の性別表記による苦痛
保険証は、医療を受けるときはもちろん、身分証明としても利用頻度の高いものです。
そこには戸籍上の性が記載されているので、それを見る度に心の性との乖離を再確認させられることになります。
また、心の性に合わせた格好で生活している性同一性障害者の場合、外見と保険証の性別表記が一致せず、保険証を提示する度に事情を説明せねばならない不便がありました。
2007年には、性同一性障害の男性が「医療機関で保険証を提示するのが苦痛」と主張して保険証の性別表記を「女性」とするよう松江市に求めました。
この松江市からの照会を受け、2012年9月に厚生労働省が性別表記についての対応を発表しています。
■性別表記はどこまで変更可能?
まず確認したいのが、性別欄に戸籍上の性別と異なる性別を記載できるのかということ。
この点、厚労省は、「やむを得ない理由があると保険者が判断した場合に、保険証の表面ではなく裏面に戸籍上の性別を記載できるようにする」と決定しました。
つまり、記載場所は変えられるものの、記載するのはあくまで戸籍上の性別ということになります。
その理由は、戸籍上の性別が明らかでないと、それぞれの性別に特有の病気を見逃す危険性があるとのことでした。
これを踏まえて、先ほど紹介した松江市の性同一性障害の男性の例でも、性別欄を「裏面記載」とし、裏面に「戸籍上の性別 男(性同一性障がいのため)」と記載した保険証が公布されています。
次回は、表記変更の許可に関する基準について説明します。