小説で読むおもしろい判例
小説で読むおもしろい判例 の記事一覧(2ページ目)
虐待の果てに ― ある幼児の死 第七回
武には相変わらず収入がなかった。しかし、倫子の給料は取り上げて管理した。勤め先の給料日を調べていて、 「ワシが管理しといたるわ。専業主夫っちゅうやつや」 などと言い、返そうとしない。倫子は武に金の使... 続きを読む
虐待の果てに ― ある幼児の死 第六回
第6回 武は自分を疎ましく思っている。いや、疎ましいのは自分ではなく、自分の娘なのだ。娘の愛奈に構えば構うほど、武は不機嫌になる・・・。 しかし倫子は、武と別れてマンションを出る気にはな... 続きを読む
虐待の果てに ― ある幼児の死 第五回
第5回 倫子は武の、娘・愛奈に対する態度にも失望していた。 愛奈は2歳8ヶ月で、少し小柄だったが、健康に生育していた。性格は素直で明るく、挨拶などもきちんとできた。母親がいないことに慣れ... 続きを読む
虐待の果てに ― ある幼児の死 第四回
第4回 同居を始めてみると、武が店で言っていたことは、大半が作り話であった。 部屋は確かにU駅近くのマンションだったが、武の所有ではなかった。貸主が友人なので、賃料を延滞しても無理が利く... 続きを読む
虐待の果てに ― ある幼児の死 第三回
第3回 倫子は当初、両親に娘の世話を頼んで、生活を立て直すつもりであった。 しかし両親はすでに年老いて、実家は7歳上の兄が仕切るようになっていた。兄は迷惑顔を隠そうとせず、特に嫁は何かに... 続きを読む
虐待の果てに ― ある幼児の死 第二回
第2回 倫子が武と知り合ったのは、平成15年11月ころである。 武は倫子がアルバイトをしているスナックの客であった。月に1度ほどしか来なかったが、来ればいつも派手な飲み方をした。賑やかにカラオケ... 続きを読む
虐待の果てに ― ある幼児の死 第一回
第1回 倫子はキッチンの小さな窓から外を見て、日が翳ってきたことに気づいた。 その日は11月初めとも思えない暖かな日和だったが、秋の日差しは瞬く間に薄れ、肩の辺りがうそ寒い。倫子はカーディガン... 続きを読む
その方法で殺せますか?― 不能犯の成否 第十回
第10回 判決まで あつ子と麻美は殺人未遂罪の現行犯人として逮捕された。発覚したのは、あつ子がトイレに行ったことが、巡回の看護士から担当医に連絡されたためである。 最近のあつ子の顔色が悪... 続きを読む
その方法で殺せますか?― 不能犯の成否 第九回
第9回 実行の着手 看護ステーションには、終夜、交代で看護士が待機することになっている。しかし、早番遅番が交代するときと、見回りの出入り・引継ぎをするとき、空隙ができる可能性があった。 ... 続きを読む
その方法で殺せますか?― 不能犯の成否 第八回
第8回 計画 次の日、麻美は再び姿を見せた。そして、詳細に方法を説明した。 静脈に空気を注射すると、空気は静脈に乗って運ばれ、肺に至る。そして肺循環の低下を起こす。医師は肺機能の不全によ... 続きを読む
その方法で殺せますか?― 不能犯の成否 第七回
第7回 ある提案 「よく考えといてよ。明日また来るから」 そういい捨て、麻美は談話室を出て行った。残されたあつ子は金縛りにあったように、席を立てなかった。 どのくらいそうしていただろうか... 続きを読む
その方法で殺せますか?― 不能犯の成否 第六回
第6回 娘の来院 「麻美?」 老人は麻美に見下ろされ、慌てて廊下に去った。娘は夫に似て大柄であった。美人とはいえないが派手な好みで、今日も場違いな緋色のコートに身を包んでいた。 「どこにでもいるのね... 続きを読む
その方法で殺せますか?― 不能犯の成否 第五回
第5回 病室にて 夫の病室は、2階の3人部屋であった。 大部屋に移れば差額ベッド代が要らない、と思うこともある。だが、大部屋ではベッドとベッドの間隔が狭いうえ、仕切りは乳白色の薄いカーテ... 続きを読む
その方法で殺せますか?― 不能犯の成否 第四回
第4回 介護の光景 夫が入院する病院は、高齢患者を対象とした療養医療を提供する、いわゆるコミュニティタイプである。 初めて倒れたときに運び込まれた救急病院では、「長期入院は3ヶ月までしか... 続きを読む
その方法で殺せますか?― 不能犯の成否 第三回
第3回 病状 しかし、次の年、再び夫は倒れた。今回の入院は半年間に及んだ。 「3回目はキツイですよ。気をつけてください」 退院を前にしたある日、担当医は言った。 「キツイって、・・どういうこと... 続きを読む
その方法で殺せますか?― 不能犯の成否 第二回
第2回 卒倒 あつ子と夫の間には、一男一女がある。麻美というのは長女の名であった。 麻美は地元の大学を卒業した後、証券会社に勤めていた。しかし、一年と経たずにリストラで失職した。教育費の... 続きを読む
その方法で殺せますか?― 不能犯の成否 第一回
第一回 病院へ 2月初旬のある朝、野木地あつ子(64歳・専業主婦)はJR線S駅に降りた。 S駅は、中部地方の大都市O市のベッドタウン・S市の中心部にある。そのため、朝夕はO市への通勤客で... 続きを読む
死者と生者―犯人蔵匿罪 第五回
第五回 事件の顛末 事故現場に警察官が到着し、ただちに事故処理が行われた。それに並行して、救急隊員らによる救助活動が行われた。 しかし、金村 守(事件当時36歳、工務店勤務)、木村 隆... 続きを読む
死者と生者―犯人蔵匿罪 第四回
第四回 身代わり犯人 「早瀬、通報せんと逃げろとでも言うのか」 人通りの少ない駅裏、元旦の深夜とはいえ、事故現場の周辺には野次馬が集まりつつあった。 2台の車両は横転し、路面にはガラス... 続きを読む
死者と生者―犯人蔵匿罪 第三回
第三回 加害者たち(2) 初めて聞く、凶暴な友の声であった。二人は思わず息を呑み、早瀬の青凄んだ顔を見た。 「コラ、よぅ聞けよ。お前ら、木村が運転してたて、マジでサツに唄うつもりかい」 「センパ... 続きを読む
死者と生者―犯人蔵匿罪 第二回
第2回 加害者たち(1) 運転手・金村(事件当時36歳、工務店勤務)は、頭部から血を流して倒れていた。頭蓋が粉砕されたのだろう、頭骨の一部が髪の毛から突き出している。 血のりが黒く蛇行し... 続きを読む
死者と生者―犯人蔵匿罪 第一回
その事故は、平成21年元旦の真夜中に起きた。 場所は、O市K区U駅裏の人通りの少ない交差点。 西へ向かって第二車線を走行していた軽自動車が、時速40キロ近いスピードを落とさぬまま、横... 続きを読む
無罪推定―3通の起訴状 第五回
一、判決 判 決 被告人 石井直也 主 文 被告人は、本件各公訴事実について、いずれも無罪。 ・・・以上の検討によれば、山本弘子に係る殺人被告事件については、被告人が同事件の犯人であると認めるには合... 続きを読む
無罪推定―3通の起訴状 第四回
合理的疑いを超えて 1.山本弘子殺害に関する検察官の主張(要旨) 検察官は、弘子の実妹の証言から、被告人が弘子の唯一の交際相手であること、失踪当日夜に同女を電話で呼び出したのは被告人であること、失踪... 続きを読む
無罪推定―3通の起訴状 第三回
1 被告人・石井直也 石井直也は事件当時26歳だった。 昭和59年7月、覚せい剤取締法違反(使用)の罪により、懲役1年6月、執行猶予3年、付保護観察の有罪判決を受けた。その後、両親のい... 続きを読む
無罪推定―3通の起訴状 第二回
1 3通の起訴状 世間は「犯人逮捕」の報に安堵した。 石井は過去に2度、やはり覚せい剤取締法違反で有罪となっていた前科を持っていたため、14年余りの年月を経て突然容疑者が逮捕されたことに疑問を持... 続きを読む
無罪推定―3通の起訴状 第一回
第1回 早朝の事件 平成元年1月27日午前7時ころ、K市H区・・町に住む老夫婦が、A女子大学付近の坂(通称「女坂」おんなざか)上に広がる雑木林を散策していた。 この雑木林では、秋はキノ... 続きを読む
キズで毛羽立った古いソファに腰を下ろした 第六回
第6回 検察官の主張(1)―起訴状(要旨) 公訴事実 被告人・安藤孝之は、平成・・年・月・日午前8時ころ、東京都墨田区亀戸4丁目亀戸レジデンス内、栗原不動産株式会社において、中村 芳次郎(当時71... 続きを読む
キズで毛羽立った古いソファに腰を下ろした 第五回
第5回 私はすがる思いで、残った一人の住所を探した。懐かしい屋号が目に飛び込んできた。「中村不動産株式会社」―昔は「有限会社 中村商店」だったが、間違いない。会社法上、有限会社がなくなったので、株... 続きを読む
キズで毛羽立った古いソファに腰を下ろした 第四回
第4回 ふと気がつくと、テレビは4時のニュースを流しはじめている。もうすぐこの部屋を出なければならない。 画面は、「お天気の概況」から、「経済ニュース」に変わった。サブプライムローンの影響とやら... 続きを読む