前回、民法には、子供に対して暴力を振るったり、暴言をはいたりして、子供を害するような場合には、「親権喪失」や「親権停止」といった制度があることをご説明しました。
これらの制度は、子供への虐待を防止するために設けられたものです。児童虐待は、厚生労働省の統計によれば、統計をとりはじめた平成2年から一貫して増加し続けています。虐待による死亡事件は、毎年50~60件程度発生しているという痛ましい状況です。
民法以外にも、子供への虐待を防止するためにいくつかの法律が制定されています。今回は、これらの法律について取り上げたいと思います。
児童虐待防止法
子供の虐待の防止、予防と早期発見、虐待を受けた子供の保護や自立支援の措置を定め、子供の権利や利益を擁護することを目的として2000年に定められたのが、「児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)」です。1933年に旧児童虐待防止法が制定されていたのですが、児童福祉法の制定に伴い1947年に廃止されました。
ところが、子供に対する虐待が深刻化するという状況となったため、2000年に制定されたという経緯があります。
児童虐待防止法では、18歳未満の者を「児童」とし、保護者がその監護する「児童」に対して行う次のような行為を「児童虐待」と定義しています(法2条)。
- 体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること
- わいせつな行為を行うこと、又はわいせつな行為をさせること
- 心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置(ネグレクト。パチンコ店の自動車内に乳幼児を放置することもこれにあたります。)、保護者以外の同居人による虐待の放置
- 著しい暴言や拒絶反応、DVなど児童に著しい心理的外傷を与える言動(他の兄弟姉妹と激しく差別する行為はこれにあたります。)
子供への虐待は、家庭という外から見えにくい場所で行われることが多く、被害者である子供が自分で助けを求めることは難しいため、発見することが非常に困難です。
発見が遅くなればなるほど、虐待は深刻化し、子供は心と体に取り返しのつかない傷をおってしまうことになりますので、法は学校の教師や病院の医師・職員、保健師、弁護士など職務上発見しやすい立場にある者に早期発見の努力義務を課しています(法5条)。
さらに、一般の人にもそのような子供を発見した場合は、市町村・都道府県の設置する福祉事務所や児童相談所への通告を義務付けています(法6条)。
なお、この通告については、児童虐待防止法の趣旨に基づくものであれば、それが結果として誤りであったとしても、そのことによって刑事上・民事上の責任を問われることは基本的にはないとされています。