皆さんは、士業者は専門の仕事ばかりしていると思っていませんか。実際は、直接の仕事とは関係のない相談事が多いのです。今回からは、そのような話を書かせていただきます。
得意先の居酒屋の主人から、「Aさんが200万円ほど貸してほしいと言って店に来ているのだが、どうも様子がおかしいので、ちょっと事情を訊いてもらえないだろうか。」という電話がかかってきました。もちろん、このような事情を訊くというのは行政書士の本来的業務ではありません。しかし、行政書士に限らず、○○士という肩書のつく仕事をしていますと、このような依頼・相談はよくあることです。しかも、得意先の居酒屋の主人から頼まれたからには断れないという事情もありますし、事情を訊きながらビールの一杯でもご馳走になろうかという下心もあるだけに、すぐにその居酒屋へ向かいました。
Aさんはかつて大変景気のよかったIT関連企業に勤めていたのですが、リストラにより失業し、現在は運送会社に勤務しています。店へ向かう途中、私はいろいろと考えました。失業したときに生活費のために借金をしたのであろうか。そうであれば、債務整理、場合によっては、民事再生や破産も考えなければなるまい。そうなると、事情をよく訊いて、これらを得意としている弁護士か司法書士にお願いしなければならないなぁと考えていました。
相談する側は、「○○士」という肩書がついていると、その人の専門が何であれ、いろいろな相談を持ちこんできます。そのようなときに、問題解決のために最も適した人を紹介するのも、「○○士」という肩書を持った者の重要な役目です。
そこで、店に到着すると、必死の形相のAさんを落ち着かせながら、優しい口調で事情を尋ねてみました。しかし、Aさんは、生活費に困って借りたとは言うものの、誰に借りたかを絶対に言いません。
経験上、私はピーンときました。これは借りた金ではないだろうと。
私の知る限りでは、借入先が銀行の場合は、すぐに▽△銀行に借入があると説明し、隠そうとする人はいません。借入先がサラ金である場合は、できれば隠そうとする人が多いですが、ある程度、追及を受けると正直に話し始めます。
しかし、Aさんは頑なに借入先を話そうとしません。
そして、不幸にも私の「借りた」金ではないだろうという推測は的中してしまいました。(つづく