1.最初に ── 1,540円から6,160円へ
昨年の1月、私自身が直接IRを行っている会社の株価は、上場来最安値を僅か20円上回る1,540円に低迷していた。それが10ヶ月後の11月に、ちょうど4倍の6,160円(分割修正後)をつけるとはその時は夢にも思わなかった。
その間、株価を再び上昇トレンドに乗せるために、許容されるあらゆるIR手法を駆使した。年2回の決算説明会の他に、ワン・オン・ワンと呼ばれる機関投資家との個別ミーティングを延べ57回102人、アナリストの来社によるミーティングを延べ32回36人、アナリスト主宰のスモールミーティングを2回、個人投資家向け説明会を3回、証券会社営業員向け説明会を1回──といった具合である。
ただ教科書に載っているこういったIR手法だけでは、すぐに効果が出て株価が上昇することは難しいことも判っていた。それでも社長の落胆ぶりを見るにつけ一刻も早く株価を元の2,100円前後に戻さなければと思っていた。
と言うのも、東証二部上場に合わせ500千株程の公募を予定していたので、株価が500円下がるとまるまる250百万円も会社の手取りが減ってしまうことになるからだ。売上利益率5%で逆算すると、ちょうど50億円分の売上が消えてしまった勘定になる。いくら社員が力を合わせても売上50億円は大変な数字である。それが500円の株価下落で消えてしまうのだから、株価は恐ろしい。
だからこそIRは重要なのである。そしてその巧拙で株価に大きな差が出ることを思うと、IRは担当役員レベルで完結できる事柄ではなく、経営トップ自らが率先して行い、その結果に対し責任を負うべき重要な戦略事項なのである。
以下、私の考えるIRについて述べていきたい。
2.CSRとディスクロージャーとIR
ここ数年、企業の不祥事が繰り返されている。そのため消費者や社会が企業を見る目も非常に厳しくなってきており、企業の社会的責任(CSR)も一段と高いものが要求されるようになってきている。
ありきたりのコンプライアンス体制や善管注意義務では不充分で、法律の背景にある精神まで考えて主体的に守り、実践していくといったものが求められている。しかもその運営にあたっては外部からも見える、徹底した透明性とそれを裏付けるディスクロージャーが求められている。
企業の資金調達の大きな流れが、銀行による間接金融から証券市場・投資家による直接金融に大きくシフトしてきている現在、ディスクロージャーは経営戦略的にもきわめて重要であり、そしてそのディスクロージャーをベースにした、投資家向けIRも企業にとり必須事項になってきているのである。
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