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IR実務「1年で株価を4倍にしたIR(4)」

5.結論=ズバリ株価を上げるためには

(1) 機関投資家と個人投資家

 株価を考える場合、機関投資家と個人投資家はよく「車の両輪」にたとえられるが、それは「左右の両輪」ではなく「前後の両輪」だと考えるべきである。もちろん機関投資家が前輪である。株価の方向を定め(フェアバリュー)、ぐいぐい引っ張っていくのが前輪の機関投資家であり、後ろから付いていくのが後輪の個人投資家である。ここを履き違えると全くピントのずれた、あるいは費用ばかりかかる空回りしたIRになってしまう。力強い上昇トレンドの株価などはとても期待できない。まさに「選択と集中」が求められるのである。

(2) 機関投資家へのアプローチ

 近道はない。地道にセルサイドのアナリスト、バイサイドのアナリスト、ファンドマネージャーといった機関投資家廻りを行うべきである。その場合、長期保有を行う年金、外資系、投信等を中心に、しかもできればトリプルAクラスの機関投資家を中心に廻るべきである。間違っても証券会社の言うままに廻ってはいけない。彼らは商売になる先(株式の注文を出してくれる先)ならヘッジファンドでもどこへでも連れて行くからだ。自社の将来の優良な株主を探すわけだから、2日間で10社廻るなら半分の5社ぐらいは少なくとも自社でアポ取りを行うべきである。それぐらいの慎重さと熱意がなければとても機関投資家へのアプローチは成功しない。

(3) 社長よりIR担当者

 「社長は半期に一度決算説明会で顔色を確認できれば良いが、IR担当者とは毎月の業績フォローやその内容確認、レポートを書く際の資料依頼等々で頻繁に連絡しあっている」

 これはアナリストからみた企業側の一面であるが、これからも判るとおりIR担当者のIRにおける比重は経営トップと変わらないぐらい重要である。社長がIRの表の顔で、IR担当者は裏の顔だと言われる所以である。業界に詳しいアナリストや海千山千のファンドマネージャー達と、「中期計画でPERは何倍になる」「EPSはいくらの見込み」などと、有価証券報告書や決算短信をめくりながら丁丁発止でやれる人物でないととても務まらない。

 さらに付け加えると日経新聞や業界紙といったマスコミ、連日のように来社する証券会社担当者等とも上手く付き合える能力がないとIR担当者は務まらない。つまり性格的には明朗快活で責任感が強く、知識的には自社の営業内容や中長期のビジョンを社長に代わり説明でき、さらに金融と証券についても相当なレベルのものを有していることが不可欠である。そうして初めてアナリストやファンドマネージャーから人間的にも能力的にも信頼され、スムーズな対話が成立するのである。これはチームとして力を発揮する大企業にも当てはまる事であるが、中堅企業の場合にはなおさらである。中堅企業のIR担当者は、絶対に社内でもトップクラスの人材を当てるべきなのである。

(4) 最初の2年が勝負

 IRは株式公開(上場)後2年間が勝負とよく言われる。これは最初の2年間にしっかりとしたIRを行わなかったら、あっという間にマーケットから忘れ去られてしまうと言うことである。現在年間150社程の優良企業が新規株式公開(上場)を行っており、2年で300社程になる。

 次々と優良企業がマーケットに登場する中で、アナリストやファンドマネージャーに評価されるためには、最初に計画的なIRを行い、彼らにその存在を強くインプットしておかなければならない。時間が経ち、いったんマーケットでくすぶった存在になってしまうと、再びIRを軌道に乗せるのには大変な労力と費用がかかる。しかも十分な結果を得られる保証はない。

 ずっとIRを行っておらず、最近IRを開始しようとした会社でアナリストやファンドマネージャーから無視され、個別訪問も受けてもらえない会社を何社も知っている。だからこれから株式公開を行おうとしている会社や、公開後間もない会社はぜひ「最初の2年が勝負」であることを肝に銘じてIRを行ってもらいたい。

6.終わりに

 紀伊国屋書店でIR関係の本を探したが、表紙にIRの文字が書かれているのは僅か10冊ぐらいしか見当たらなかった。それも大学教授や証券系IR会社の関係者によるものがほとんどで、実際に自らアナリストやファンドマネージャー達とガンガンやりあったと思える人によるものは皆無であった。だから書かれた本もとてもIRの実務に役立つとは思えなかった。明日からの経営にすぐ役立つものを求める経営者に対し、ケインズの経済原論を説いているようなものである。読み終えて、翌日からすぐにやってみよう、真似てみようと思う内容が全く無いのである。

 そう言う私も掲載スペースの関係もあり、IR手法について詳しくは書けなかった。特に私自身やってみて効果のあったIR手法や教科書に載っていないIR手法についてもう少し具体的に書ければ良かったと思っている。ただ実際にIRを行っているものとして、中堅企業やこれから株式公開を考えている企業に対し、株価に直結した、より実践的なIRのヒントのようなものを少しは示せたのではないかと思っている。

 将来機会があるなら、私自身こういった中堅企業や新興企業に出かけ、いっしょになって最小限の費用と労力でできる効率的なIRを実践し、しっかりとしたIR体制とマーケットから十分評価された株価をつくることができればと願っている。

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