前回では、消費者保護法制全般について、見てきました。
今回と次回では、消費者保護法制がどのように移り変わってきたか、について、「法的観点の変化」という点を中心に見ていきたいと思います。
2.消費者保護法制の移り変わり
入り口規制からクーリングオフ、そして契約締結過程の規制へ
- 1) 従来の規制?営業許可制、約款認可制=入り口規制
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従来は、消費者保護のための制度として、事業者の営業を許可制にしたり、取引の条件を約款という形にして監督官庁の許可を受けることを義務付けたりすることが多くなされてきました。
これらは、言わば「入り口での規制」ということが言えます。つまり、悪徳業者と消費者とが交わらないように取引の場の入り口でシャットアウトしてしまう、あるいは、たとえ契約について消費者が全く不知であったとしても契約条件が適正に保たれるように、適正でない契約を入り口でシャットアウトしてしまう、という考え方です。しかしながら、社会には次から次へと新たな商売が起こってきますから、そのような新しいものへの規制を事前に行うことには無理があります。また、全てを許可制にしてしまえば経済は停滞し活力が失われてしまうことでしょう。
さらに言えば、上記のような「入り口」の規制だけをして後は当事者同士で自由にやって良い、ということにしても、やはり消費者は弱い立場であったり情報不足であることから、不公正な契約となることを防ぐことはなかなか出来ません。 - 2) 入り口規制からクーリングオフ/権利主張型へ
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そこで、発想を少し変え、消費者が熟慮することが難しい状態で軽率に契約してしまった場合などに、契約締結後における無条件の解約権を認めることで、消費者を保護しようとする方法が取り入れられました。これが旧訪問販売法や割賦販売法などにおける「クーリングオフ」という解約権の制度です。
このクーリングオフの制度は、業法規制による「入り口規制」から、契約締結後における消費者からの権利主張を私法的に認めるものであり、概念的には「入り口規制=行政介入型」から「権利主張型」に転換したと言うことが出来ると思います。
(なお、この「行政介入型」から「権利主張型」というのは私の造語ですが、その意味するところはご理解いただけるものと思います。)しかしながら、クーリングオフ制度は、最初に述べたように、行使期間の短期制限(8日、14日又は20日)があると同時に、行使できる取引形態と商品やサービスが限定されており、消費者保護としては、依然として部分的なものであり限界が指摘されていました。
クーリングオフ制度がこのように限定されている理由は、クーリングオフ自体が事業者の故意や過失を必要とせず、また解約の理由がどのようなものであるかを問わず、一方的に消費者からの解約権を認めるものであり、通常の取引通念では考えられない、言わば現代の「棄捐令(江戸時代の借金棒引きを認めるおふれ)」のような性質を持っているため、それを一般的に認めるにはあまりに事業者のリスクが大きすぎるためと考えられます。
従って、クーリングオフ制度は、「行政介入型」から「権利主張型」への政策転換が認められるものの、消費者を完全に私法上の当事者として扱った上での「権利主張型」にはまだ完全には至っていないと言えるでしょう。
- 3) クーリングオフから取引過程の公正維持へ
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そこで、契約一般について、契約締結の過程において、消費者と事業者の間の「情報格差」を実質的に解消させる義務を事業者に課し、契約締結における「実質的な公平」を実現することで消費者を保護しようとする「消費者契約法」が平成13年4月から施行されました。
これは、消費者保護の重点が「入り口規制」から、「取引自体」の公正さ、「取引過程」の公正さを実現するに移行したことを意味していると考えられます。また、クーリングオフ制度で取り入れられた「権利主張型」の政策がさらに推し進められ、契約過程における事業者との実質的な不平等を補正した上で、消費者を「契約当事者として一人前」に扱うことを目指しているものだと言えるでしょう。
この消費者契約法、とりわけ消費者取消権の創設による消費者保護の考え方の変化については、次回詳しくご説明したいと思います。