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もし子供が事件を起こしたら

もし子供が事件を起こしたら

 「今時のお子様をめぐる法律講座」最終回は、少年の非行事件についての特集です。
 ご存知の読者も多いと思いますが、平成12年12月6日、少年法が改正されました(平成13年4月1日より施行)。年々、若年化・凶悪化する少年事件の変化に対応すべくなされたものですが、その詳細な解説はいろいろとなされているところですから必要な限りにとどめます。
 現実に我が子、あるいは自分が非行と呼ばれる行為をしてしまったとき、どのような取り扱いを受け、それにいかに対応すべきかなどを、具体例を通して見ていきたいと思います。

補導ってなんでしょう?

Q.

 警察から電話があり、「お宅のお子さんを補導しました。少し反抗的なので気をつけてください」といわれました。帰って来た子どもに聞くと、何かしたわけではなく、塾帰りにビデオショップをうろついているところを呼び止められ、いろいろ質問されたそうです。
 何もしていないのに「補導」されることがあるのでしょうか?

A.

 少年補導は、強制力のある補導と、強制力のないものに大別されます。
 前者は、刑事訴訟法警察官職務執行法少年法などを根拠として、非行少年に対して検挙保護等の処置をとる場合です。お子さんが受けた補導は後者のほうで、非行に移行する虞のある少年等を発見し行う街頭補導や、必要な場合は家庭や学校に連絡し、注意、助言をすることなども含まれます。警察の内部規範に基づいてなされるもので、少年警察活動要綱20条に規定されますが、警察官だけではなく、警察の委嘱を受けた少年補導員が行うこともあります。
 街頭補導は、盛り場、駅、風俗店など、少年が特殊な誘惑を受け、非行に走りやすい場所で行われています。この補導は強制力を持ちませんから、質問されたり派出所へ来るよう言われても従う義務はありません。しかし、その時に取った態度も含めて「少年補導票」に記載され、後日非行を犯して家庭裁判所に送致されたような場合には補導歴として報告されることになります。誤解を受けることのない対応をすべきでしょう。

エンコーは犯罪と聞きましたが

Q.

 高校生の娘です。最近、バイトでは買えるはずのないブランド品を持ち歩くようになりました。問い詰めると、サイトで知り合った中年男性のカラオケに付き合い、小遣いをもらっているというのです。「エッチするわけじゃないし、いいじゃん」と言っていますが、これはエンコーにあたらないのでしょうか?

A.

 援助交際、略して「エンコー」とは、テレクラ、出会い系サイトなどで知り合った男性が性行為を目的として女子高生などの未成年者に金品を与えるもので、男性の行為は買春、女性の行為は売春にあたり、売春防止法児童福祉法、青少年保護育成条例など諸法の淫行処罰規定の適用を受けます。

 カラオケに付き合うことを条件として小遣いを与える行為は、いわゆる「エンコー」が意味する買春行為ではありません。しかし、カラオケだけ、お酒だけといいながら、男性の最終的な目的は性行為にあることがほとんどです。娘さんに売春の意思がなくても、強姦されたり、相手が性的異常者や暴力団関係者である可能性もあります。
 また、遊びに付き合うだけで何万ものお金を得ることを覚えてしまうと、経済的な感覚が麻痺し、地に足のついた勉学などは出来なくなってしまいます。「エンコー」にあたらなければ良いというものではありません。結果としてそれがどんなに自分自身を傷つける行為であるか、よく理解させることが何より大切です。

酒・煙草を勧める行為は

Q.

 近所のスナックに息子が遊びに行き、煙草やアルコールの臭いをさせて帰ってきます。注意すると、「マスターにちょっとやってみたらと勧められた」というのです。未成年者に勧めることは、法に触れないのでしょうか?

A.

 未成年者に酒・煙草を勧める行為は、未成年者飲酒禁止法未成年者喫煙禁止法に反します。また、風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)22条は、18歳未満の者を客として立ち入らせることを禁じ(同4号)、20歳未満の者に酒類・煙草の提供を禁じ(同5号)ています。懲役までの罰則規定があります。
 しかし、単に法に触れなければ良いのではありません。感受性が強く判断力が未熟な未成年者が心身ともに健全な発達を遂げられるよう、大人には有害な環境を排除する道義的責任があると考えます。件のマスターには全く配慮が欠けているとしか言えないでしょう。

17歳の彼女とのセックスも、淫行になるのですか?

Q.

 最近、ニュースで18歳未満の少女と性交渉を持ったために検挙されるというケースが数多く取り上げられています。
 私の彼女は17歳です。もし、私達が性交渉を持つと、検挙されてしまうのでしょうか。

A.

 ニュースで報道されている検挙事例の多くは、青少年の保護を目的として、定められている条例(例えば、福岡県青少年保護条例)に違反したことを理由とするものです。
 こうした条例は、すべての地方公共団体で制定されているというわけではありません。また、制定している地方公共団体についても、買春目的の性的行為に限って取り締まっているところもあれば、性的行為一般を取り締まるような規定を置いているところもあります。

 しかし、性的行為一般を取り締まってしまうと、18歳以下の女性と婚姻を前提に、真剣に交際することも事実上許されないことになりかねず、16歳以上の女性が婚姻可能とされていること(民法731条)が無意味になりかねません。
 そこで、最高裁判所も、福岡県青少年保護条例が取り締まっている「淫行」の解釈について、単に性的行為一般をいうのではなく、「誘惑、威迫、立場利用、欺罔など、青少年の精神的、知的な未熟さや情緒的な不安定に乗じて青少年を自己の性的行為の相手方としたような場合」と、限定的な意味に解釈する判断をしています(最大判昭和60年10月23日)。

 したがって、夫婦である場合はもちろん、少なくとも、いわゆる援助交際のようなものではなく、真剣に交際する過程で、16歳以上の女性と性的行為が行われた場合には、それをもって検挙されるということはないと考えておいてよいでしょう。(ちなみに、13歳未満の女性にわいせつ行為や姦淫行為を行った場合は、強制わいせつ罪(刑法176条後段)や強姦罪(同177条後段)にあたります)。

 とはいえ、相手の女性が18歳以下の場合には、成年に比べると、精神的に未熟な面があることは否定できません。彼女を大切に思うのであれば、成年であるあなたが節度をもって交際することは大切です。

少年実名報道について

Q.

 何年か前、近県で少年による凶悪犯罪が起こりました。新聞では名前が報道されず、しかも犯人は近く少年院を出るという噂で、隣近所に越して来てもこれでは分かりません。少年だからと特別扱いは許されないのではないでしょうか?

A.

 少年実名報道については様々論議が戦わされています。これらについて一言でまとめることは不可能ですから、ここでは少年法の意義をおさらいして本講座の結びにすることにしましょう。
 少年法は、発達過程にある少年の可塑性にかんがみて、成年と異なる法的措置を講じようとするものです。たとえ今はいくら「ぐれて」いたとしても、少年には変っていく可能性を一般的、潜在的に持っているということです。また、大人と同じ程度に重い罰を科せば、少年ならではの可能性を摘み取られ、一辺で再起不能になることも考えられるでしょう。

 今どきの子どもは、確かに成年者の想像を越えて行為しつつあります。しかし、彼らは未知の星から飛来してきたのでもなんでもなく、まさに我々大人自身が作った環境の中に生れ落ち、育ってきたのだということを、大人の責任として忘れてはならないと思います。

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