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第3回 法務管理会計学序説

 以下のような設例で法務管理会計のイメージを考えてみる。

 例えば私の妻が、夕食の食材を買いに行く過程を考察する。
 この場合、私の妻はいきなり、スーパーに出かけ法律行為(契約等)に入るわけではない。
 まず、その前提として、次のような流れがある。家族で夕食を取りたいという本能があり、そしてそれに基づき、行動をはじめる。
 経済学上、人間はホモエコノミクスであると仮定されるので、このような議論の場合、宵越しの金はもたないつまり、持ち金全部で、夕食の食材を購入するというような行動は通常しないと考える。
 管理会計を知らずしても、このような場合、人は、差額原価分析という管理会計学的思考を通常、自然に行っているはずである。
 いくつかの代替案を、検討し、総費用が最も安くつく案を採用するという行為である。
 私の妻は、出かける前に、スーパーや市場の新聞チラシを見るであろう。
 そして、今日の夕食の食材が、例えば鮮魚であるならば、各スーパー等の鮮魚の価格を比較検討するはずである。
 検討はこれに止まらずに、次のような、その他の事項についても検討しなければならない。
 仮にAスーパーが甲市にあり、往復400円のバスで行けるとする。ただし、鮮魚の値段は800円と仮定する。
 次にBスーパーは、乙市にあり、行くのに電車で往復700円かかるとし、鮮魚の値段は600円であるとする(自宅からA、Bに到達する時間は同一と仮定する)。
 鮮魚の品質は同じであると仮定すると、私の妻は、総費用が1,200円ですむAスーパーにおいて鮮魚の購入をするという案を採用するはずである。(この場合の差額原価は100円となる。)
 つまり、人は、法律行為、簿記(設例の場合は家計簿記入)等の記録、会計行為(この場合は、私に家計簿を見せて、様々な交渉をするということ)に先駆けて、このような形での意思決定を知らず知らずのうちにしているわけであるが、これが管理会計による意思決定である。もちろん、企業活動においてはこの思考をもっと、科学的かつ合理的に確立する必要がある。
 上記のような思考過程の中で、「バスのキセルは難しいが、電車のキセルは容易なので、電車代は入場料の150円ですむかもしれない。すると電車代は往復300円となり、合計900円で、総計1,200円のAスーパーよりも300円Bスーパーの方が安くつく。やはり、Bスーパーにしようか?」と私の妻が思考したとしたら、それは管理会計の問題だけではなく、キセルをしても法的に許されるのか、つまり法律を調査し、それも含めて検討する必要が出てくる問題すなわち、「法務管理会計論」となるわけである。(私の可愛い妻はキセルなんてしないが・・)

 さらに第一段階で仮にAスーパーにするという『法務「管理」会計』上の意思決定をした後は、次に、いかにして、Aスーパーとの契約交渉を行うかという、第2段階の『法務「管理」会計』上の意思決定をする必要性が生じる。
 そして、鮮魚を買うことができれば、その行為を家計簿に「記録」(法務会計)し、私や子供に「報告」(法務会計)するという制度会計的な行為を行うということになる。これら一連の手順を予め、合理的にシステム化するということであるならばそれは、ISO等にも関連する経営システムの問題に発展する。
 企業においても、上記と同様の思考のもとで行動しなければならないはずである。

 このような「法務管理会計学」思考に加え、記録の問題(簿記・ISO)、報告・確認の問題(制度会計・許認可会計・税務会計・ISO)、監査・検査の問題(証券取引法会計・ISO)、国際法務・環境の問題、経営自体の問題、経営哲学の問題等を、総合的に勘案しようと試みる新しい学問を、「法務会計学」という。

 今後企業経営等において、最も必要とされる経営手法こそが法務会計ないし法務管理会計であり、また求められる専門家もこの法務会計の専門家であると確信している。

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