最終回の今回は、税法のギャップを利用した節税について説明したいと思います。税法のギャップを利用した節税方法の代表的なものは、個人事業を法人化する法人成りです。法人成りの節税の仕組みを簡単に説明しましょう。
所得税では所得の種類を10種類に分けています。そのうち、ここで関係してくるのは事業所得と給与所得です。事業所得というのは個人事業者の所得で、売上などの収入から必要経費を差し引いて計算します。一方給与所得は給料の収入金額から給与所得控除という一定の金額を控除したものです。給与所得控除はサラリーマンやOLの領収書のいらない必要経費という性格を有しています。1,000万円の給料だと220万円の給与所得控除があります。
ここで手元のお金がどれだけ残るかを考えてみます。話を単純にするため社会保険料の支払いや所得税の源泉徴収は横に置いておきます。事業所得者であるAさんの場合、例えば2,000万円の現金売上で1,000万円の必要経費を全部現金で支払ったとすると、手元に残ったお金は1,000万円で課税される事業所得も1,000万円で一致します。
一方、給与所得者Bさんの場合、1,000万円の給料をもらうと、手元で増えたお金は1,000万円ですが、課税される給与所得は220万円の給与所得控除を引いた780万円になります。つまり、事業所得よりも給与所得の方が課税上かなり有利になっています。また、事業所得には地方税である個人事業税も課税されます。ここにギャップが生まれます。
それでは、個人事業者Aさんが上記の事業所得と給与所得の課税ベースのギャップを利用して節税するためにはどうすればよいのでしょうか?
答は、個人事業者が、給与所得者になれば良いのです。そのために法人を設立しAさんが社長になって役員報酬をもらいます。先ほどの個人事業の売上2,000万円と必要経費1,000万円をそのまま法人に移します。そしてその法人から1,000万円の役員報酬をAさんに支払うと法人の利益はゼロになりますので法人にはほとんど税金はかかりません。一方、Aさんは1,000万円の給与収入を得るBさんと同じ状態になります。しかも個人の事業税も発生しなくなります。このケースで具体的にどれだけの節税ができたかを検証してみましょう。
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*所得控除が200万円と仮定しています。 |
法人成りして給与所得者になったことによって807,000円の節税に成功しています。
個人事業者や同族会社などは、税法のギャップを利用した色々な節税手法を考えることができます。しかし、注意しないといけないのは、所得税法や法人税法には同族会社の行為計算の否認という規程が用意されていることです。かいつまんでいうと、同族会社つまり日本の中小企業のほとんどであるオーナー企業の場合、経営者とその一族の思惑だけで簡単に利益操作ができ、これを利用して様々な節税対策を行うことが出来ます。これを封じるため、それが目に余る場合には、税務署長は、その節税対策が無かったものとして税額を計算し直す権限を有するという、まさに伝家の宝刀です。
つまり、いくら合法であっても、行政判断でそれを無かったことにしてしまうことが出来るということです。
最後に
5回にわたって節税をテーマに書かせて頂きました。拙稿が少しでも、皆様の経営活動の一助になれば幸いです。