中国で大気汚染が深刻化し、現地ではマスクや空気清浄機が飛ぶように売れているそうです。汚染物質の一部は日本にも飛来するとのことで、対岸の火事とも言っていられません。今回はこの話題に法律の観点から斬りこんでみたいと思います。
現在、中国の大気汚染で特に問題視されているのが、「PM2.5」とよばれる微粒子状物質。これは粒の直径が2.5マイクロメートル以下の物質で、粒が小さいぶん、肺の奥深くまで侵入するため、人体への影響が大きいとされています。工場の排煙や自動車の排気ガスに含まれ、偏西風に乗って日本にも飛来しています。
日本では、環境基本法16条1項に基づき、汚染物質ごとに環境基準が定められています。PM2.5については、2009年9月に「1年平均値が1立方メートルあたり15マイクログラム以下であり、かつ、1日平均値が1立方メートルあたり35マイクログラム以下」という基準が定められました。ただ、この環境基準は「維持され又は早期達成に努めるものとする」程度のもので、罰則等が定められているわけではありません。
より直接的な規制としては、大気汚染防止法に基づく工場等からの汚染物質の排出規制、「自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法(自動車NOx・PM法)」に基づく基準に適合しない車両の登録及び継続車検の禁止や、首都圏・中京圏・近畿圏で実施されている環境保全条例に基づく基準に適合しない車両の運行禁止などがあります。
ただ、上記の規制はあくまで日本国内のもので、海外から飛来するものについては、防ぎようがありません。汚染物質が国境を越えてくるからには、国際的な取り組みが必要といえます。こうした動きは以前からあり、1983年発効の長距離越境大気汚染条約(LRTAP条約)は、加盟国に対し酸性雨等の越境大気汚染の防止対策を義務づけています。ヨーロッパ諸国のほか、米国やカナダなど49か国が加盟していますが、日本をはじめアジアの諸国は加盟していません。
これまで、中国をはじめとするアジア諸国の大気汚染については、経済発展を急ぐあまり、目をつぶってきた側面がありましたが、今後は、国を超えた対策が求められます。