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金メダリストも恐れた勧告

 指導者による女子選手への暴力問題や助成金不正受給問題など不祥事が相次いだ全日本柔道連盟(全柔連)の上村春樹会長が、7月30日の臨時理事会で8月末までの辞任を表明しました。この背景には、7月23日に内閣総理大臣が全柔連に対して出した勧告があります。今回はこの話題を取り上げます。

 内閣総理大臣が出したのは、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(公益認定法)28条1項に基づく勧告です。同条項は、公益法人(公益社団法人・公益財団法人)が公益認定の基準(同法5条)のいずれかに適合しないなど、公益認定を取り消しうる事由があると疑うに足りる相当な理由がある場合に、必要な措置をとるべき旨の勧告をすることができるとされています。
 この勧告の内容は公表しなければならないとされており(28条2項)、今回の勧告も公益法人行政総合情報サイトで公表されています。

 当初、全柔連側は勧告に対して、会長ら執行部の速やかな辞任を拒否するなど、反発していました。それが、ここにきて態度を一変させたのは、全柔連が勧告に対応しなければ、公益認定の取り消しもありうると危機感を募らせたためとみられます。
 仮に全柔連が勧告に適切に対応しない場合、内閣総理大臣は勧告にかかる措置をとるべきことを命令することができます(28条3項)。さらに、正当な理由がなく、命令にも従わない場合には、内閣総理大臣は、公益認定を取り消さなければならないとされています(29条1項3号)。
 内閣総理大臣が勧告や命令を出すにあたっては、大学教授や公認会計士、弁護士らで構成される公益認定等委員会諮問しなければならないとされていますが(43条)、同委員会の関係者が強硬な立場を崩さなかったことから、全柔連も白旗を上げざるを得なかったのでしょう。

 では、そこまでして守りたかった公益法人の地位とは、どのようなものなのでしょうか。

 公益法人となるメリットは、「公益」という名称が付くことによるブランドイメージの向上のほか、税制上のメリットが大きいとされています。
 まず、公益法人の場合、公益目的事業に関する所得は非課税とされています。全柔連の場合、「柔道の普及・振興事業」が公益目的事業とされており、現在、ほとんどの事業が非課税となっていると思われます。
 加えて、収益事業を行っている公益法人の場合、収益事業から得られた収益を公益目的事業のために支出することで、所得を圧縮できる「みなし寄附金」制度を利用できるのも、大きなメリットでしょう。

 公益認定が取り消されることで、これらのメリットが失われるとともに、「公益認定が取り消された問題の多い法人」というイメージが付くことは、今後事業を継続して行う上で大きなマイナスとなります。
 上村会長は、モントリオールオリンピックの柔道無差別級金メダリスト。そんな「世界最強の男」でも、今回の勧告には屈せざるを得なかったようです。

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