長年働いてきた会社が9月に倒産してしまいました。私たち従業員は、7月分からの給料ももらえずにきています。未払い分の給料や退職金を会社に支払ってもらうことはできないのでしょうか?
あなたは、7月以来の未払い賃金と退職金を全額請求することができます。これらの金銭債権については、先取特権が認められているからです。
先取特権とは、法律が定める特別な債権を有する者が債務者の財産から他の債権者に優先して弁済を受けることができる権利のことです。
未払いの賃金や退職金などは「労働債権」と呼ばれます。従来、こうした労働債権のうち、従業員がもらうべき最後の6か月分の給料に限って先取特権が認められていました(民法旧308条)。しかし、平成16年に民法が改正され、期間の制限なく、また、給料に限られず、「債務者(会社)ト使用人(労働者)トノ間ノ雇用関係ニ基キ生ジタル債権ニ付キ」、先取特権が認められるようになりました(民法308条)。これにより、退職金についても、同法により先取特権の対象となりました(ただし、賃金請求権は2年、退職手当請求権は5年で消滅時効にかかります:労働基準法115条)。なお、同法の改正により、商法旧295条及び有限会社法旧46条2項は削除されています。
さらに、会社更生法、破産法、民事再生法にも従業員の賃金の保護・回収に関する条項がおかれています(会社更生法130条、破産法98条・149条・151条、民事再生法122条等)。
ただ、優先して弁済を受けることができるといっても、何もしなければ債権は回収できません。場合によっては、倒産のどさくさに紛れて、他の債権者が力ずくで会社の財産を持ち出してしまい、債権の回収がさらに困難になることもあります。
そこで、会社の中にある製品や材料などを他の債権者が勝手に運び出せないように確保したり、賃金台帳などの帳簿類や取引先関係書類、就業規則、退職金規定などの規則書類を散逸したり、持ち出されたりしないような配慮が必要です。
こうした債権の回収は、従業員ひとりの力では難しいものです。労働組合があれば、これを核として、従業員が一致団結することが大切です。会社が倒産しても、労働組合の団体交渉権はなくなりません。労働組合がない場合は、弁護士、あるいは労働組合団体などと相談し、ただちに労働組合を結成するようにしましょう。