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NTTの電話加入権料の廃止について

 2005年1月12日、「法、納得!どっとこむ」を運営するNPO法人リーガルセキュリティ倶楽部より、東日本電信電話株式会社(NTT東日本)代表取締役社長および西日本電信電話株式会社(NTT西日本)代表取締役社長宛に、読者の皆さまからお寄せいただいたご意見とともに「公開質問状」を送付いたしました。

なぜいま電話加入権料の廃止の是非が問題となっているのか

 NTT東西地域会社は2004年11月5日、固定電話に新規加入する際に利用者から徴収している7万2000円(税抜)の加入権料(施設設置負担金)を、2005年3月1日に半額の3万6000円に引き下げると発表しました。今回の発表では、加入権料の廃止には言及していませんが、段階的廃止に向けた布石とみられています。

 電話を利用するための権利である電話加入権は、時の経過によってもその価値が減らないため、従来、加入権料を価格の基準として取引市場が形成されてきました。法律上もこのことを前提とした様々な制度が設けられていますが、加入権料が引き下げ、あるいは廃止されると、取引市場からお金を払って加入権を購入する人がいなくなることから、加入権の市場価値はゼロになることになります。事実、今回の発表前後から、加入権料の価格は急落し、販売価格は1万数千円にまで下落しています。また、新規の買い取りを停止している販売店も多いようです。

 このことは、単に加入権料を支払った人、あるいは加入権を購入した人が不利益を被るというだけでなく、約4兆7千億円という資産が消滅し、関連業界にも影響が及ぶことから、社会全体に大きな影響を及ぼすことになります。また、こうした社会的に重大な事項を民間企業であるNTTが単独で決めうるのか、という問題もあります。そこで、加入権料の廃止の是非が問題となっているのです。

そもそも電話加入権・加入権料とは何なのか?

 電話加入権とは、NTTの電話サービス契約約款 (PDF)によると、「加入電話契約者が加入電話契約に基づいて加入電話の提供を受ける権利」(21条)です。この権利自体は、加入権料が引き下げ、あるいは廃止されても消滅することはありません。
 では、私たちが「加入権料」と思っているお金は何なのでしょうか。これは、「施設設置負担金」と呼ばれるもので、NTTによれば、「新規申し込みの際に必要な費用」であり、「電話加入権の額」を示すものではないとされています。
 とはいえ、電話加入権は譲渡可能であり、権利を譲り受けた人は施設設置負担金を支払わずに電話を使用できることから、取引市場では施設設置負担金を参考に売買代金が決められており、一般には「施設設置負担金=電話加入権料」と考えられています。

加入権料(施設設置負担金)の歴史

 加入権料の歴史は、電電公社設立時(1952年)にさかのぼります。途中、設備料→工事負担金→施設設置負担金と何度か名称が変わりましたが、物価の上昇に合わせて値上げされていき、現在は7万2000円(税抜)となっています。

 加入権料は電話の早期普及のための設備建設資金の調達手段として利用されてきましたが、電話網の整備が進み、また、加入者が1997年11月をピーク(6322万加入)に減少し始めたことから、前払いで徴収する意義が薄れつつあります。他方で、NTTが2002年から(ISDN回線については1997年から)開始した加入権料が不要な代わりに月額料金が通常よりも高くなる料金プランが現在では新規申し込みの大半を占めるに至っています。
 こうしたことを背景に、総務省は加入権料廃止の検討を開始し、2004年10月19日、総務省の情報通信審議会は、「既に本来の意義を失い、新規加入の妨げとなり得る施設設置負担金については、NTT東日本及びNTT西日本が自らの料金戦略として、廃止も選択肢とした見直しを欲するのであれば、それは容認されるべきものと考える。」との答申を出しました。

 NTTとしても、携帯電話の普及やKDDIやソフトバンクグループが加入権料が不要なサービスを開始することになったことから、経営戦略上、加入権料の廃止を含めた見直しを決断することになったのです。

電話加入権の法律上の扱いと廃止の影響

 電話加入権は、法人税法上、固定資産として扱われ(2条22号)、また、時の経過によって減価しないとされているため、たとえ売買価格の下落によって電話加入権の実質的な価値が下落したとしても、減価償却することができません。このため、最終的に価値がゼロになったとしても、損金算入が認められなければ利益を圧迫するにもかかわらず、法人税の支払額に変化はありませんし、他方、今後、これを損金算入できるとした場合、法人税の税収にも大きな影響を与えるとみられています。
 なお、携帯電話の加入権料(新規加入料)は、1996年に携帯電話の加入権料が無料になった際に、税法上、減価償却資産である電気通信施設利用権として取り扱われることになり、一括損金算入が認められました。

 次に、電話加入権は、相続財産とされています(財産評価基本通達161)。このため、現時点で電話加入権を相続した場合は、相続税の課税対象となりますが、今後、相続財産から除外されれば相続税の減収要因となり得ます。

 さらに、電話加入権は国税徴収法によって税金が滞納された場合に差し押さえることができるとされています(国税徴収法73条)。加入権料が廃止になった場合、すでに差し押さえれられている加入権は換価できなくなるため、国や地方自治体の財政を圧迫する可能性があります。

 また、電話加入権は特別法によって質権の設定が認められています(電話加入権質に関する臨時特例法)。今後、加入権の価値が下がるにつれて加入権の質入れを受け入れる業者も減るでしょうし、現在、質草として保有している加入権の価値がなくなれば業者にとっては死活問題となるおそれがあります。

 最後に、現在、施設設置負担金受入額の累計はNTT東西会社の合計で約4兆7千億円に上ります。NTTの2003年度純利益が6438億円ですから、仮に受け入れ時からの物価上昇分を含まない現在の貨幣価値で全額を返金したとしても、NTTの「もうけ」が7.3年分消えてなくなる計算になります。

 なお、NTTの固定電話の加入権は、

「電話加入権は、NTTとの契約に基づく債権の一種。財産としての価値を有する限り、憲法29条1項に規定する財産権になる」

との見解を、10月19日の衆議院予算委員会で内閣法制局長官が打ち出しています。
 これに関し、「政府と政府が出資する特殊会社であるNTTの判断で、国民が持つ財産の市場価値を無くすということは、憲法で禁止される財産権の侵害にはあたらないのか。」という質問が提出され、11月2日に内閣総理大臣は、

「憲法第29条は、公権力による侵害から財産権を保護する趣旨の規定であると解されるところ、施設設置負担金の廃止は、第一義的には、東日本電信電話株式会社又は西日本電信電話株式会社(以下「NTT東西」という。)が加入電話契約に基づき新規加入者にどのような負担を求めるかという、NTT東西と新規加入者との間の契約上の問題であることから、基本的には同条の適用が問題になるとは考えていないが、これが同条の適用にかかわる問題であるとしても、施設設置負担金が廃止された場合においてもそのことにより既存の加入者の電話加入権の内容、すなわち、加入者が加入電話契約に基づき電気通信役務の提供を受けることのできる地位自体は何ら影響を受けるものではなく、また、施設設置負担金の廃止に合理的な理由がある限り、そのことにより既存の加入者の電話加入権の市場価値が減少又は消滅することになったとしても、それは財産一般について生じ得る環境の変化等に伴う資産価値の低下と同様のものであると考えられ、施設設置負担金の廃止が同条との関係で問題を生じることはないと考える。」

と答弁しています。

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