1、なぜ問題となっているのでしょうか?
2001年に小泉内閣が誕生して以来、小泉首相は毎年靖国神社に参拝しています。その参拝の度に、アジア諸国、特に中国と韓国から大きな非難を受けています。それにもかかわらず、小泉首相は今年も参拝の意向を表明しています。さらに、先日は、A級戦犯を靖国神社に合祀したことについて、昭和天皇が不快感を示したという富田元宮内庁長官のメモが公けになり(日経新聞7月20日)、政界も大きく揺れているようです。
ところでわが国の憲法20条3項は「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」と定めています。この規定は、戦前国家と神社神道が結びつき不幸な戦争へと突入していった歴史にかんがみ、国家と宗教を切り離そうという趣旨で設けられたものです(政教分離)。この趣旨からすれば、日本の行政の長である総理大臣が靖国神社に参拝することは、まさにこの規定に違反してるのではないか、と問題になるわけです。これに対し、内閣総理大臣も-個人として憲法20条1項の信教の自由を保障されるから、個人としての参拝は問題がない、とする考えもあります。
そこで今回は総理大臣の靖国神社参拝について皆さんと考えてみたいと思います。
2、そもそも、靖国神社とは何でしょうか。
靖国神社は、1869年、明治天皇の勅命によって「東京招魂社」という名称で建立されました。建立の目的は、幕末の護国殉教者を国としてお祀しようというものでした。1879年、名称を「靖国神社」と改称し、陸・海軍省の所管となりました。このころから、外国との戦争などで国のために亡くなった戦没者を、護国の英霊として合祀するようになりました。
1945年、第二次世界大戦で日本国は敗戦しました。ポツダム宣言では、国家と神道を切り離すべきであると勧告を受けました。それをうけて翌46年に公布した現行憲法は、先の政教分離規定を設けました。靖国神社は、国家管理を離れ、東京都知事の所管する一宗教法人となりました。
1978年、終戦直後の東京裁判でA級戦犯として戦争責任を問われ死刑となった東条英機(真珠湾攻撃を決断した首相)を初めとする14名が、靖国神社に合祀されました。これが周辺各国に危惧される問題となりました。 わが国の総理で、靖国神社を参拝したのは14名です。もっとも参拝回数の多かったのは、1965年から1972年にかけて11回参拝した佐藤栄作首相です。次いで多かったのは、1983年から1985年にかけて10回参拝した中曽根康弘首相です。小泉純一郎首相は、昨年までで、5回参拝しています。
他方、参拝しなかった総理は、鳩山一郎首相・竹下登首相など13名です。
3、総理大臣が靖国神社へ参拝する理由
小泉首相は、靖国神社への参拝理由について、過去の軍国主義を美化しようとする意図ではなく、多くの戦没者に対して経緯と感謝の意を表すためのものであるとしています。すなわち、今日のわが国の平和と繁栄は、戦没者の尊い犠牲の下に成り立っており、その犠牲者に対する追悼、経緯および感謝の気持ちを捧げるとともに、戦没者が目にすることができなかった今日のわが国の平和と繁栄を守り、不戦の誓いを込めて、総理の職務としてではなく、一国民として参拝しているとしています。
現行憲法20条1項は、信教の自由は、何人に対してもこれを保障するとしています。国民は、自由に宗教的価値観を持つことができ、誰にもそれを侵害されることはありません。総理大臣も一国民であり、自己の宗教的価値観を侵害されることはないと考えているようです。
4、裁判所はどう考えているのでしょうか
首相の靖国参拝については、多くの訴訟が提起されていますが、注目すべきは、昨年の東京高裁と大阪高裁で、靖国参拝についての判断が異なったことです。
東京高裁平成17年9月29日判決は、首相が靖国神社に赴いて本件参拝を行った一連の行為は、内閣総理大臣の職務行為として行われたとはいい難く、自己の信条に基づいて行った私的な宗教上の行為であるか、又は個人の立場で行った儀礼上の行為であるというべきであり、憲法20条3項に違反しないとしました。
一方、大阪高裁平成17年9月30日判決は、首相の靖国参拝は、一般人に対して、国が靖国神社を特別に支援しており、他の宗教団体とは異なり特別のものであるとの印象を与え、その効果が特定の宗教に対する助長、促進になると認められ、国と靖国神社との関わり合いがわが国の社会的・文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものというべきであるから、本件各参拝は、憲法20条3項の禁止する宗教的活動に当たると認められるとしました。高裁レベルで、初めて違憲判断を下したものです。
以上は法律論です。この法律論とは別に、靖国神社参拝問題は極めて重要な外交上の問題であると同時に、政治的な問題でもあります。
5、靖国参拝に対する諸外国の反応
総理大臣の靖国参拝に対して、もっとも強い反応を示しているのが中国と韓国です。中国外交部は、昨年10月、総理大臣の靖国参拝に対して、抗議声明を出しています。その内容は、「中国とアジアのその他の国の人民の強い反対を顧みず、第二次世界大戦のA級戦犯を合祀した靖国神社をまたも強硬に参拝した。こうした被害国人民の感情と尊厳をほしいままに傷つける間違った行為に対し、中国政府と中国人民は強い憤りを表明し、日本側に強く抗議する。」というものです。また、韓国からも強い批判を受け、外相会談等が急きょ取りやめになるなど、抗議の意思を明らかに示しています。
これらの抗議の主な理由は、日本国の総理大臣は、太平洋戦争によって、日本軍の攻撃の犠牲者となった多くの方々とその遺族の感情に配慮すべきであるというものです。総理大臣は日本の指導者であるから、その指導者が大きな犠牲をもたらした戦争を肯定するような行動はとるべきではないとしています。ただ、汚職、貧富の差などで政府批判が日増しに増える中国にとって、中国国民の不満を外に向けさせる対象として、対日感情の高揚は必要だから表向きは靖国神社に反対しているが、本当は日本の総理大臣が引き続き靖国参拝することを望んでいる、という見方もあります。
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総理大臣が靖国神社に参拝することに
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