知人がなかなかお金を返してくれない場合に、支払督促という方法が有効ということを教えていただきましたが(「知人がなかなかお金を返してくれない! (1)」参照)、弱点はないのですか。
支払督促は、あくまで、債務者が債務の存在について争っていない場合、すなわち、「そのうち返すから。」などとのらりくらりしている場合に実効性があるのです。
もし、ひとたび、「そもそも借金などした覚えはない。」などと言い出して、異議を申し立てると、通常の訴訟に移行してしまいます(民事訴訟法390条)。
すなわち、せっかく、支払督促によってお金や時間を節約しようと思っていても、相手の出方によっては、すべてパーになってしまうのです。
では、相手がどう出るかわからないような場合は、貸しているお金が少ないと、通常の訴訟をしても費用倒れになるからと、泣き寝入りしなければならないのでしょうか。
そんな事態を国が放っておくわけはありません。
国民に利用しやすい訴訟手続をめざして、平成8年に、民事訴訟法が改正され、その一環として新設されたのが、少額訴訟制度(民事訴訟法368条~381条)です。
この少額訴訟制度を利用する手があるわけです。
それはどのような制度なのですか。
少額という以上、「60万円以下の金銭請求」に限られ、「事件が複雑でなく、証拠証人がその日に出せる」という場合に限られるほか、行方不明者に対しては、訴訟を起こせない、といった制約はありますが、時間や費用が大幅に節約できる、次のようなメリットがあるのです。
まず、第1に、手続が簡易化されたということです。
弁護士などに頼らなくても、自分で訴訟ができるように、貸金請求のような典型的な紛争については、定型用紙が裁判所に用意されており、空欄を埋めていけば書類が出来上がるようになっています。
また、第2に、時間がかからないように配慮されています。
少額訴訟は、原則として1日で裁判が終了します。したがって、訴状用紙をもらいに行き、訴状を提出し、裁判に出席する、という3回だけ裁判所に出向けば足りるのです。
裁判自体も数時間で終わります。
具体的にどの程度の費用がかかるのでしょうか。
かかる費用としては、基本的には、訴状に貼る印紙代と、裁判所が書類の送付に使う切手代のみです。
印紙代は、請求金額の約1%なので、最高でも3,000円程度です。
切手代は、訴訟を起こす相手が1人であれば、3,910円であり、1人増えるごとに、2,100円ずつ増えていきます。
こうした費用は、最終的には、裁判に負けた人が負担することになります。
時間もお金もかからない非常に便利な制度ですね。
でも、デメリットはないのでしょうか。
このようにメリットの多い少額訴訟制度ですが、やはり弱点がないわけではありません。
相手方が、少額訴訟でなく通常訴訟でやりたいといいだせば、通常の訴訟に移行します(民事訴訟法373条)。
また、同じ裁判所に1年間に10回までしか申し立てることができません(民事訴訟法368条、民事訴訟規則223条)。しかし、これは、専らサラ金業者の独占的な利用を防止するための制限といえます。
では、支払督促において、相手方から異議の申立があった場合は、少額訴訟の適用範囲の金額であれば、通常の訴訟ではなく、少額訴訟に移行するのでしょうか。
いいえ。たとえ、請求の内容が少額訴訟を利用できる範囲であっても、通常の訴訟へと移行してしまいます。この点は注意してください。