12月下旬のことである。
夕方から冷え込んできたため、倫子は気まぐれに、潰した米飯を白湯に溶かして与えようと考えた。最後に食事を与えてから、すでに丸1日たっていた。
「愛奈、ご飯やで」
返事は無かった。
昨日は武と外食して遅くなり、そのまま寝てしまった。起きたときはもう昼になっていた。何か与えようとは思ったが、二日酔いのため、何もする気がしなかった。
「何かやらんでもええのか」
武が聞いた。最近、武は目に見えて機嫌が良くなり、二人の仲は回復していた。
「この前ちょっと見たら、えらい毛が抜けとったぞ。どうもないんか」
「大丈夫や。しんどかったら泣くやろし」
武もそれ以上は問わず、倫子もそのまま寝てしまったのだ。
リビングの灯りに照らされた娘は、頬がこけて目が落窪み、老婆のようだった。手足もさらに細くなり、自分で立ち上がることはできなくなっていた。
「食べなあかんやろ、さ、食べ」
愛奈は無言で頭を左右に振った。倫子は愛奈の上半身を抱き起こし、かゆ状の飯をスプーンで口に入れようとした。しかし、口を開かない。
倫子はいらついて、少し指にとると、唇を開けて押し込んだ。愛奈はようやく飲み込んだが、すぐに吐いてしまった。
「・・・そや、チョコレートがあったわ」
武とパチンコに行って、玉をチョコレートに換えたのを思い出した。
チョコレートを割って口に押し込んだところ、喉がかすかに動いたので、嚥下できたのがわかった。もう1片与えようとしたが受けつけなかった。少量の水を飲ませ、サッシを閉めた。
リビングでは、武がテレビを見ながらビールを飲んでいた。最近では、愛奈にはほとんど関心がなくなったらしい。
テレビは年末らしい歌番組を放映していた。
「お前も飲まんか」
二人はテレビを見ながらビールを飲み始めた。
愛奈がベランダに出されてから、3ヶ月がたとうとしていた。
(続く)