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中小企業の債権回収 (3) 「債権回収 ?緊急時の行動」

 緊急時の債権回収行動は、迅速で確実な回収行動を要求されますが、その反面トラブル回避の必要から慎重さも要求されます。法律にギリギリの線での回収もせざるを得ないという場面も多々あります。回収行動に関しての法律面の検討が必要です。今回は私が過去に前職で実際に経験した、手形金の回収行動についてお話します

 ある月の末日に某取引先(地方の零細企業です。今後A社といいます)からいきなりこんなFAXが届いたと、営業所の担当者(B君といいます)より私に連絡がありました。

 そこには、A社の社長名で「銀行からの融資が降りなかったので今月末期日(本日)の支手決済ができなくなった。そこでご迷惑をおかけするが手形のジャンプをお願いしたい」との文章が書かれてありました。つまり、資金不足でA社振出の手形を約束どおり決済できないので支払期日を先延ばしにしてほしい、との要望なのです。

 私は直ちにB君にA社に電話で事情を聞きできるだけ早く社長と面会する段取りをつけるように指示するとともに営業部長に報告しました。

 債権回収のマニュアル本では、手形ジャンプについての対応がよく書かれています。その多くは担保設定や債務保証を条件とした対応が書かれています。しかし、これまでの私の経験では、手形のジャンプを要請してくる取引先には担保になるような物件は無く、さらに債務保証をするような人もいたことがありません。逆に入担可能な物件や保証人があればこのような事態にはならないのではないでしょうか。

 緊急に打ち合せをして、そこで売掛残、手形残及びその明細の確認が行われました。そこでは10万円程度の売掛金と未決済手形は3枚合計で約160万円、総債権残高約170万円であること、今後の対応について話合いがもたれました。

 今後の対応については、「銀行に提示してある手形は買い戻してもう少し様子を見よう」という結論に達しました。まず、不渡りを出させないことが先決と考えたからです。

 緊急時においてもよく“慎重に様子を見てから”という結論となることが多いと思いますが、皆さんはどのように思われますか?私は慎重に対処することは当然必要ですが、様子を見るという態度については

  1. 相手からの返事(次の通知)を待つ
  2. こちらから行動を起こして様子を探る

の二種類にわけられるのではないでしょうか。 1. より 2. の方がいいに決まっています。ところが、実際には 1. の行動をとってしまうことが多いのです。結局我々もそうでした。

 いろいろなトラブルがありましたが、それは省略してこの事件の結末についてお話します。B君の努力の結果彼はA社の社長と面会できました。私が彼に出した指示はA社長に次の事項を交渉するよう指示を出しました。

  1. 売掛金については小切手で回収すること
  2. 先払いになる分に関しては全額弁済後値引き等に応ずるという条件で、未決済手形約160万円に関しては一枚当たり40万円程度の小切手で2枚と20万円程度の小切手4枚に分割してもらうこと
  3. A社の取引先からの回収予定を聞き、その予定に沿って小切手を入金することを承諾してもらうこと

 手形を小口の小切手に代えたのは、適宜入金できるからです。

 1. に関しては問題なく回収できました。 2. については多少渋られましたが、B君の説得でどうにか小切手を発行してもらいました。問題は 3. です。相当抵抗されて正確な予定表はもらえませんでしたが、小切手を入金する際に連絡を入れる条件で承諾してもらいました。

 1枚目、2枚目の小切手は予定表に従って入金し、手形金の約半分は回収できました。

 ところが、3枚目の小切手の入金予定日の前日A社との連絡が途絶えてしまったのです。高速道路を2時間かけてB君にA社に行ってもらいましたが誰もいません。

 こうなれば、事は緊急を要します。振出地が入金した銀行と同じ地域にあれば翌日くらいには相手の口座からお金が引き落とされますが、遠隔地の場合ですと「取立扱い」となり、相手の口座から引き落とされるのには3日程度必要なのです。そこで20万円程度の小切手をA社の地域にある取引銀行の支店に入金しました。結局、それから数日経って、興信所の速報にA社倒産のニュースが掲載されていました。結果として170万円中約60万円について回収不能となったのです。

 皆さんはこれをどのようにお考えになるでしょう。私としては「やるだけのことはやった」と言いたいのですが、反省点もあります。抽象的ですが、打ち合せの際の結論を会社全体で動くという積極論にもっていくべきであったこと、A社長との直接交渉にはしかるべき立場の人間が当たるべきであったこと等です。

 緊急時の債権回収は非常に困難です。実際、全額回収するのは不可能な場合も多いと思います。しかし、できうる限りの手は尽くして回収に当たらなければなりません。そのためには、債権回収は会社全体で当たる業務であるということを社内に徹底しておく必要があります。特定の人に任せきりという態度は禁物だと思います。

終わりに

 今回は、中小企業の債権回収について述べてまいりました。この他にもまだ多くの回収行動があります。また、別の機会に今回ご紹介のものも併せて詳細にご説明したいと思います。

 広範なテーマに付き、個別具体的に詳細なご説明に至りませんでしたことをお詫び申し上げます。

 企業にとって債権回収は経営の根幹に関わる大切な業務です。

 法律的テクニックも当然に要求されます。債権回収・債権管理についてご相談ご質問等ございましたら当事務所へお気軽にご連絡ください。

 ご購読いただきまして、ありがとうございました。

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