サイト内検索:

貸し渋り・貸し剥がしに備えるために (2)

 皆様、こんにちは。
 資金調達支援アドバイザーの東川です。

 前回は、「今の金融機関は昔の金融機関とは違う!」というテーマでお話をさせていただきました。
 昔から金融機関とのおつきあいをされている方は、何故、金融機関がこんなに冷たくなったのかを理解していただけたろうかと思います。

 今回は、金融機関が「貸し渋り」や「貸し剥がし」を行う理由について説明していきたいと思います。

2.なぜ、『貸し渋り』や『貸し剥がし』を行わなければいけないのか

 「貸し渋り」や「貸し剥がし」と言う言葉が聞かれるようになったのは、金融監督庁が「金融検査マニュアル」をつくった1999年からなのです。
 この「金融検査マニュアル」ができてから、金融機関の融資審査が「決算書」中心になりました。
 それまでは融資先を審査する場合には、決算書の分析もしていましたが、それよりも重要視したのは、その融資先が自分の金融機関と、どれだけ良いつきあい(預金や融資、出資金等)がをしてきたかや従業員の質がどれだけ良いか、いかに社長が信用のおける人物であり、周りの評判も良いか、というのを重要視していました。

 中小企業は通常、決算書と会社の実態がかけ離れています。
 なぜなら、その中小企業の業績が悪いときは実情を決算書に載せるのが普通ですが、良いときには役員報酬を上げるなどの節税対策をして、利益がでていないように操作します。
 脱税をしているわけではなく、節税をしているのですから、だれからも文句はでませんけれども・・・。

 このような正しい実態を表していない決算書からは、正しい審査はできません。
 今までなら、担当者や支店長がその会社の実態をよく知っていたため、多少乖離があったとしても、融資部や審査部への口頭説明ですんでいました。
 しかし、「金融検査マニュアル」が出来てからは、どんなに付き合いが長くても、社長の個人資産が潤沢にあっても、金融機関としての融資先の評価はあくまでも決算書の内容次第になってしまったのです。

 それぞれの金融機関は「金融検査マニュアル」に基づいて融資先のランク付けを行います。このことを自己査定といいます。
 融資先の査定だけでなく保有有価証券の査定も自己査定なのですが、この場ではあまり関係ないので省略させていただきます。
 この自己査定によって、今まで融資が受けられていた会社が突然融資を受けられなくなったりします。
 そして、それに大きく関わってくるのが、貸倒引当金であります。

 たとえば、融資先企業の決算書が赤字続きだとすると、金融機関にとっての資産である貸出金の回収が怪しいということになり、その貸出金は不良債権となります。
 この不良債権に対しては、「貸倒引当金」を計上することが決まっています。
 融資先の決算書次第で、金融機関は「貸倒引当金」の計上をしなければならなくなります。
 そして、貸し倒れ引当金は、金融機関の自己資本から差し引かれますので、貸し倒れ引当金が多ければ多いほど、金融機関の決算書は悪くなっていきます。
 よく、「国際業務を行うためには、自己資本比率が8%以上必要」だとか「国内業務のみ行う金融機関は自己資本比率が4%以上必要」だとかいうときのもとになるのが、この「自己資本」なのです。

 たとえ、今まで金融機関に対する返済が遅れたことがなかったとしても、「決算書ありき」となっている「金融検査マニュアル」の前では、返済の状況などは二の次となってしまいます。
 その決算書の評価基準である貸出先評価基準は次のような5(6)段階になっています。

A 正常先 業況が好調であり、財務内容に特段の問題がないと認められる債務者
B 要注意先 業況が低調ないし不安定な債務者。または、財務内容に問題がある債務者
B' 要管理先 貸出条件に問題のある債務者。元本返済もしくは利払いが事実上延滞しているなど、履行状況に問題がある債務者
C 破綻懸念先 経営難の状態ににあり、改善状況なく、今後経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者
D 実質破綻先 深刻な経営難にあり、再建の見込みのない債務者
E 破綻先 破産などの法的手続き開始、取引停止処分等発生した債務者

 この評価は、債務者の財務状況、資金繰り、収益力など、返済能力や債務返済の履行状況を判定して金融機関が個別に区別を行います。あくまでも、融資を行っている金融機関として、その貸出金の返済の危険性を評価するのがこの自己査定です。
 自己査定の仕方は、金融機関ごとに独自であり、必ずしも全金融機関で同様の査定結果が出るとは限りません。詳しく言うと「正常先」「要注意先」「要管理先」「破綻懸念先」「実質破綻先」「破綻先」評価の目安は「金融検査マニュアル」に細かく書いてありますが、さらに各金融機関ごとにマニュアルが作成されています。

 それら金融機関ごとの債務者区分の評価基準は非公開ですので、自分の会社が取引銀行からどのような評価をされているのかは正確にはわかりません。
 しかし、正常先であるかどうかは共通していますので、「正常先」であるか、それ以外であるかはわかります。「要注意先」以下は、各銀行ごとに微妙に違っているようです。

 ですから新聞で見るように、ある企業の査定が三井住友銀行では要注意先であるのにUFJ銀行では破綻懸念先という分かれた評価もありうるわけです。

 正常先になる良好な財務内容というのは、決算書が債務超過になっておらず、当期利益もしっかりと計上している状態のことです。
 そして、貸借対照表の資本の部に欠損や損失などの文字があると「破綻懸念先」や「実質破綻先」「破綻先」になります。
 そして、「破綻懸念先の中でも、今までの取引状況などがいい場合に、「要管理先」となることがあります。
 このような債務者の決算書から財務状態を判断し、貸出先評価区分を行って金融機関は「貸倒引当金」の計上を行います。

 今度は、その「貸倒引当金」の説明をいたします。
 貸倒引当金の引当率は4つに分類します。

1分類 正常先に対する債権。担保でのカバー率が100%の債権(0.1%?0.9%)
2分類 要注意先以下に対する比較的回収できる可能性が高い債権(数%?20%)
3分類 要注意先以下に対する回収の可能性が低い債権(50%?70%)
4分類 実質破綻先・破綻先に対する回収不能な債権(100%)

 これら引当率は各金融機関独自に決められており、基本的にはどの金融機関も非公開にしていますが、おおよその目安は上記の通りです。
 また、2分類や3分類は引当率にある程度の幅があり、一概に上記の通りとは言えません。金融機関ごとに引当率を決めています。

 この貸倒引当金を積み上げたくないが故に、金融機関は、決算書上で要注意先や要管理先にあたる融資先には貸出を行いたくないため、「貸し渋り」をするのであり、すでに貸出がある先には、「貸し剥がし」を行うのです。

 このような正しい実態を表していない決算書からは、正しい審査はできません。
 今までなら、担当者や支店長がその会社の実態をよく知っていたため、多少乖離があったとしても、融資部や審査部への口頭説明ですんでいました。
 しかし、「金融検査マニュアル」が出来てからは、どんなに付き合いが長くても、社長の個人資産が潤沢にあっても、金融機関としての融資先の評価はあくまでも決算書の内容次第になってしまったのです。

 一番皆さんに知っておいてもらいたいのは、

「貸倒引当金を計上すればするほど、金融機関の自己資本比率は悪くなります。
金融機関としてもできれば甘い査定をしたいのです。なぜなら、辛く評価すればするほど、貸倒引当金は増えることになるわけですから、自分の金融機関の決算が悪化してしまいます。
もちろん、現場の担当者からしても辛い評価をしてしまったら、その後の融資取引に支障がでてきます。できれば、あまり辛い評価をしたくないのが現場の担当者の心情なのです。」

ということであり、そのために、辛い評価をしなくてすむだけの材料を企業側が用意してあげることによって、貸し渋りに備えていくことが重要となってきます。

ページトップへ