前回は解雇の有効要件についてご説明いたしました。今回は解雇の中でも使用者側に起因する事由による解雇である整理解雇の有効要件についてご説明します。
整理解雇とは、一般的には経営不振や事業の構造改革(いわゆるリストラ)による不採算部門からの撤退等による余剰人員を解雇することをいいます。整理解雇はもっぱら使用者側の事情による解雇ですので、労働者にとっては何ら責めを負うものではないにもかかわらず、突然職を奪われる結果となり、著しい不利益を蒙る可能性があります。
このため、従来の裁判例では労働者保護の観点から「整理解雇の4要件」を満たさない整理解雇は解雇権の濫用として無効となるとしています。この「整理解雇の4要件」とは以下の4つの要件をいいます。
1. 経営上の必要性
整理解雇が経営上の必要性に基づいて行われることは、経営上不必要な整理解雇などありえないですから、有効要件として最も重要なことといえます。ただし、どの程度の必要性が要求されるのかという点に関しては裁判例でも見解が概ね3つに分かれています。
一つ目の見解は整理解雇を行わなければ「企業の維持存続が危うくなる程度に差し迫った必要性があること」を要するという見解です。
二つ目の見解は「企業の合理的運営上の必要性に基づくと認められること」を要するという見解です。
三つ目の見解は「企業経営者の裁量的判断の結果として、採算性の向上、競争力強化を図る必要性があると認められること」を要するという見解です。
古い裁判例では第一の見解に立つものが多かったのですが、整理解雇の4要件についてのリーディングケースとなった東洋酸素事件では東京高裁が第二の見解に立つ判断を示しました。その後は第二の見解が主流になりましたが、最近ではさらに要件を緩和した第三の見解による裁判例も出始めています。この見解によれば、たとえ事業が黒字であっても企業の経営判断を尊重し、戦略上の必要性があれば当該事業から撤退して発生した余剰人員を整理解雇することも認められる余地が出てきます。
2. 解雇回避努力
これは整理解雇が労働者の責めに帰すべき事由に基づかない解雇であるため、労働者の継続雇用の期待を裏切らないためにも、使用者側として、信義則上できるだけ解雇を回避すべき義務を負うというものです。いわば、整理解雇は人員削減の最終手段であり、これに至る以前に使用者側として雇用の継続を考えた様々な手段を講じるべきであるということです。具体的には労働時間短縮、新規採用停止、配転出向、希望退職者の募集等の措置を講じないと解雇回避努力を怠ったと捉えられる可能性が高くなります。
3. 人選の合理性
整理解雇も普通解雇の一種ですが、一般の普通解雇と大きく異なる点は多くの従業員の中から被解雇者が選定されるという点です。したがって、その選定基準を合理的に説明できなければなりません。一般的には、人事考課結果、従業員に対する経済的影響度、企業への貢献度等を考慮した選定基準であれば合理性を見出すことが出来ると思われます。
4. 手続の妥当性
整理解雇は労働者の責めに帰すべき事由に基づかず解雇するものであることから、使用者としては、労働者側の理解を得られるように努力すべき信義則上の義務があると考えられています。したがって、整理解雇に当たって、使用者は労働者や労働組合に対し整理解雇の必要性、規模、時期、被解雇者の選定基準について十分な説明を行ったうえでその理解を得るなど誠意ある対応を取る必要があります。これらの説明義務を怠った場合には解雇が無効とされる可能性が高くなります。
これらの4要件は、従来はまさに「要件」であり「要素」ではないという考え方が主流でした。つまり、従来の裁判では4つの要件全てを充足しない限り整理解雇は無効と判断されていましたが、近年ではこれらの4要件は解雇権濫用を判断する際の考慮要素に過ぎず、4つの観点から総合的に判断して解雇権濫用となるか否かを判断するというように変化してきています。
なお、今回の労働基準法改正においてはこれらの整理解雇の4要件について基準法上明記すべきであるとの意見も出ましたが、確立された法理ではないとの理由で見送られたという経緯があります。しかし、従来の解釈や運用が変わるものではないことから、参議院厚生労働委員会の付帯決議において「使用者に対し、東洋酸素事件(東京高裁昭和54年10月29日判決)等整理解雇4要件に関するものを含む裁判例の内容の周知を図ること」が政府に対し求められています。