近年、企業を取り巻く状況には厳しいものがある。
不況から脱しきれないということもあるが、そのような景気の浮き沈みの問題だけではなく、企業の倫理や社会的責任といった課題も問われる時代になったと言えよう。
背景には、国内では食品会社による衛生管理の偽装や自動車会社によるリコール隠しによって消費者の不信を招いたことがある。また、海外からは、世界的規模で市場の統一化が進み、様々な分野で国際標準を適用することが要求されるようになっていることなどが挙げられる。
企業のリーガルリスクとして、まず法律違反自体のリスクが考えられる。
法律に違反した企業は監督官庁の指導や処罰を受ける。また、顧客から契約を解消されたり消費者に不買運動を起こされるなどの拡大損害につながる。これらの有形無形の損失が企業の存亡にかかわる事態に直面することもある。
例えば、1997年5月に日本の自動車メーカーの在米子会社がセクシャル・ハラスメント問題を起こし公民権法違反で訴えられた際に、米国で実際に不買運動などの動きが見受けられる。
それから、他人の権利を侵害した場合に損害賠償を科せられるリスクがある。その典型的な例がPL訴訟である。製品の欠陥が原因で使用者が損害を被った場合、メーカーはPL法に基づく損害賠償請求訴訟を起こされて、巨額の賠償金を支払うことにもなりかねない。
また、企業間や個人との約束事、すなわち契約をめぐる訴訟リスクもある。
日本では、1991年に営業秘密の保護の拡充のため不正競争防止法が改正され、今まで書面化があまり行われてこなかった分野で、きちんと契約書をつくるようになるなど、契約によって権利や利益を保護する動きが広がってきている。
情報化、国際化によっても法的リスクは増大する。
例えば、独占禁止法の適用が非常に厳しい国もあれば、独占禁止法すら持っていない国もある。日本では許される行為が、刑事罰の対象となる、といった例はいくらでもある。
このように法律が国によって異なっていることが、さまざまな法的リスクの原因となりうる。したがって、国際化が進めば進むほど法的リスクにさらされる機会は増えていくと考えられる。
また、世界には法体系が形成途上にある国や、法律や規則が猫の目のように変わったり法律の運用が人によって異なるなど、法環境が不安定な国がたくさんある。そうした国とかかわる場合、法律に関する情報収集の面で後れを取ると、大変なリスクが生じる恐れがある。
現代社会において企業が事業活動を行う上で、リスクのない環境は存在しない。
このような状況の下では、いかにして、リスクの存在やリスクが及ぼす影響を予測するか、そしてリスクを回避あるいは軽減するかといった、リスクマネジメントこそが企業経営において重要である。
そのための手段としては、有機的な組織の再編成、事例研究を社員教育に取込むことが考えられる。