サイト内検索:

CSRとコンプライアンス(4/4)

 企業のリーガルリスクマネジメントとして重要なことは法を遵守すること(コンプライアンス)である。これが、最終的に、企業にとって利益をもたらすことは当然ではあるが、これまでの歴史において、十分に徹底されていたとは言えなかった。これについて、以下述べる。

 企業がモラル主体であるということは、外部から強制されて倫理的な存在になるのではなく、自主的に倫理的な存在となることである。したがって、企業がモラル主体であるならば、企業のあり方を変える主要な路は、企業が自主的に倫理規範を企業内部に制度がすることに求められる。
 近年注目されているコンプライアンスはそのことに関連することがらであり、モラル主体として単に法令だけでなく社内規則や道徳を含めた社会規範を遵守するために「コンプライアンス・プログラム」を構築している企業が少なからず存在している。

 このコンプライアンス・プログラムのコアとなるのが倫理綱領である。その倫理綱領を中心に考えると、コンプライアンス・プログラムは、倫理綱領倫理委員会倫理訓練プログラム倫理監査、から構築される。そしてコンプライアンス・プログラムが有効に機能するかどうかは、いかなる内容の倫理綱領を制定しどのように徹底させるのか、にかかってくる。だがこれはそれほど簡単な問題ではない。

 倫理綱領とは「当該企業の全般的な価値体系を明示し、その目的を明確に規定し、それらの原則に従って意思決定に一定のガイドラインを提供するもの」であり、企業行動規範(行動憲章)と称せられることもある。
 アメリカでは、企業倫理への関心が高まるにつれてそのような関心に応える形で、倫理綱領を制定する企業が急速に増加していった。それは1970年代中頃のことであり、そのような動きは今日では「倫理綱領運動」と呼ばれている。
 だがそれは必ずしも「成功」したわけではなく、ある調査研究では倫理綱領と企業不祥事の減少に相関関係を見いだせなかったことが指摘されている。簡単にいえば、倫理綱領の制定が組織改革にまでつながらなかったのだ。

 ただし、このことは倫理綱領の意義を低下させるものではない。なぜならば、モラル主体としての企業の核となるものは倫理綱領であるからである。課題は、倫理綱領になにを盛り込みそれをどこまで企業内で周知徹底できるか、そして有効なチェック体制を構築できるか、にある。

 自主規制とは逆に企業をモラル主体とみなすことに反対の立場をとれば、企業のあり方を変える方途として政府による「社会的規制」が重要視される。
 規制という言葉には、現在一種のアレルギー反応が見られ、規制が諸悪の根源であるかのような世論が形成されているが、これは「経済的」規制と「社会的」規制を峻別していないために生じる現象である。
 確かに政府の規制(法令)は「両刃の剣」であり、それによって、政府のパワーが「巨大な」ものとなることは避けられないことであるとしても、そのことが社会的規制の意義の否定につながるものではない。

 汚染防止、作業域の安全と健康、消費者保護、平等な雇用機会の保障、等々の社会的目標の実現をめざした社会的規制はわれわれの社会に必要不可欠なものであり、それは、経営倫理の観点からいえば、企業に対する「不祥事を起こさないように」というメッセージとして「抑止力」の意味をもつのであり、本来のデバイス(倫理綱領の制定)と連動すればより大きな効力を発揮しうるであろう。
 具体的な事例として、現在立法化が話題となっている「内部告発者保護法」を考えてみる。公益通報者保護制度の「直接の」目的は内部告発者の保護であるが、別の観点からすれば、その「究極の」目的は企業不祥事を防ぐことにあるのではないか。
 このような理解にたてば、公益通報者保護制度(社会的規制)は企業が「自助努力によって倫理的な存在」となることへの「大きな外圧」として機能することが期待される。

 コンプライアンス体制の構築にあたっては、現場の情報がトップに行き渡る組織作りをしなければならない。もし、現場で不祥事が起きた場合に、トップが「私は知りませんでした」では済まされないのである。

 コンプライアンスを企業が実践していくためにはどうすればよいであろうか。

 まず、大前提として、規定を作らなければならない。では誰が作るのが良いか。
 これは企業内に専門的な部署を設ける、専門家である外部の弁護士等に依頼するなどの手段が考えられる。予算不足であれば専門家にアドヴァイスを求めるということもあり得よう。専門家であれば容易に指摘できる問題点であっても、専門家に相談せずにこれを看過し、事後的に大きな損失を被ってから学ぶということは稀ではない。

 規定を作ったならば、それを実践する。このとき、経営トップがまずなによりも実行しなければならない。それによって、社員が忠実にコンプライアンスを実践するようになる。従業員任せではいけない。
 そして、コンプラインスが実践されているかを確認しなければならない。チェックシートなどを用いた管理体制、確認作業を実行し、反省点をあぶりだして、それを次のコンプライアンスの実践に生かさなければならない。

 最後に、規定は最初から完璧というものはなく、企業により、理想的な規定は異なるし、時代の変遷で規定が現状にそぐわなくなる事もある。コンプライアンスの実践→反省→改善を繰り返すことで、そしてコンプライアンス規定そのものも改定することで、企業は持続的に成長する。そして、既に述べたように、規定の改定の際には、専門家の意見を参考にすべきである。
 経営トップと同様に、コンプライアンス規定の作成、改定に関わる専門家も、当然、現場の声に真摯に耳を傾ける態度でなくてはならないであろう。(以上)

前のページ| 1 2 3 4 |

ページトップへ