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インターネットと情報財(1/4)

 Winny をどう思いますかと問われることがある。コンピュータ関係者が Winny をどう考えているかに興味があるらしい。確かに、ネットを相手に夜を徹してプログラムを開発し、その結果が何らの販売ルートを通じずに、あっと言う間に、数万、数十万の人たちに支持される世界は日常のものではない。

 Winny は、サーバを経ずしてファイル共有を可能とするソフトとして開発された。Winny をダウンロードした PC は相互に結合され、ファイル送受信のためのネットワークを構成する。PC が接続されている通信路の帯域は様々なので、ファイルの転送に当たっては高速な経路を選び、かつ匿名性を高めるよう適度に迂回する。
 Winny は良くできていると評判で、腕に自信のあるプログラマが一目置くソフトウェアらしい。

 Winny 事件以降、若いエンジニアや研究者から意見を聞く機会が何度かあった。Winny に対する、エンジニア、研究者の意見は一様ではない。
 ハッカー(悪い意味でなく)と呼ばれる人たちは、皆、反権力、反独占だと考えるのは適切ではない。法の遵守を説く人もいれば、社会革命家のような人もいる。ただ、概して Winny に共感を覚えるのは、著作権問題もさることながら、Winny がよくできたソフトだからだろう。

 Winny 事件の直後に、大学院の講義時間を利用してディベートを行った。大学院生30余名を6班に分けプレゼンをさせた。事実関係を調べる報道班、法的な知識を基に議論を組み立てる検察側と弁護側、音楽や映画ソフトのコンテンツ業界や消費者団体、技術開発に責任がある学会の6班である。
 講義の目的は、ディベートを通じて著作権やプロバイダ責任制限法などの知識を得ることに加え、情報財の流通に関する様々な視点を学ぶことである。例えば、CD 販売量の減少を訴えるグループもあれば、多少の違法コピーの許容は CD 販売にプラスだという意見も出る。技術者の社会責任を問う声もあれば、情報が自由に流通する時代に著作権保護は社会的コストが大き過ぎるという意見もある。
 あっと言う間に90分の講義時間が過ぎた。若手の助手、助教授がボランティアで討論に参加してくれるなど、この問題への関心の高さを感じた。

 講義のレポート課題として、学生に声明文の作成を求めた。自分の立場に近い公的機関を選択し、Winny 事件に対して声明を発するという課題だ。個人的な感情で言いたいことを書くのでなく、立場を明確にして社会を説得する声明を求めた。集まった声明の立場は、予想に反し弁護一辺倒ではなく、コンテンツ開発者の立場も多かった。
 ただ、警察や検察の立場が見られなかったのは、学生の若さゆえか。

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