今回は、税金の支払いを将来に繰り延べる節税方法について述べたいと思います。節税対策と呼ばれるもののほとんどは実はこのタイプに属します。
平成15年4月以後、全額損金にできる少額の減価償却資産の上限が、それまでの10万円から30万円に引き上げられました。これによって、それまで4年間で減価償却していた25万円のノートパソコンの購入代金が、今年の4月以後は全額買った年度の損金(必要経費)とすることができるようになりました。因みに、法人税では費用のことを損金といい、所得税では必要経費といいます。
これも前回書いた政策減税のうちのひとつです。しかしこの場合、前回の永久に税金が免除される減税と違い支払う税金の総額は変わりません。具体的な数字で比較したものが表1です。左側はノートパソコンの代金25万円を初年度で全額損金に計上した場合、右側は法人税法で定める耐用年数で4年間にわたって減価償却費として損金に計上し、4年目に廃棄した場合です。法人の場合は原則的に定率法という方法で減価償却をします。耐用年数が4年の場合には0.438という率を未償却残高に乗じて計算します。法人税等の税率は40%としています。
<表1> | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
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表1で明らかなように、耐用年数の4年間で見れば最終的な損金算入額も節税額も同じです。しかし、初年度についてだけみると100,000円-43,800円=56,200円だけ全額損金に計上した場合の税負担が軽減されています。しかし、2年目以降の3年間をみると逆に減価償却する方が税負担が軽くなります。これがはたして節税と呼べるのでしょうか?
この稿のテーマでもある、お金を残す手段としての節税という視点から考えてみましょう。
この場合、経営につきまとうリスクが重要な要素になります。先ほどの表1では、4年間で減価償却する場合、来期以降もずっと黒字であることを想定していますが、業績が悪化して来期以降赤字になる可能性もあります。そうなると損金算入できても、もともと税金を支払わなくても良いわけですから、2年目以降の56,200円は節税の機会を失います。このケースでは、初年度に全額損金に算入した方が、しなかった場合より56,200円多く手元に資金を多く残すことができたことになり、それが赤字転落した翌年以降の資金繰りに貢献します。
これは極端なケースでしたが、税金の支払いの将来への繰り延べ、言いかえれば節税額の先取りは、将来の経営リスクを回避するために必要だということが分かって頂けたと思います。(つづく)