2004年11月30日、「法、納得!どっとこむ」を運営するNPO法人リーガルセキュリティ倶楽部より、日本放送協会(NHK)およびNHK関連労働組合連合会(NHK労連)へ読者の皆さまからのご意見とともに「公開質問状」を送付いたしました。
これに対し、2004年12月20日、NHK広報局経営広報部より回答をいただきましたので、ご報告を兼ねて以下に掲載いたします(ウェブでの表示の都合上、若干表示形式を変更しています。原文については、下のリンクからご覧ください)。
- NHKの受信料問題に関する公開質問状
- NHK広報局経営広報部からの回答(PDF:4.7MB)
- NHK労連からの回答(2004年12月15日)
特集番組「NHKに言いたい」について
NHKでは、視聴者の皆さまの声に向き合い、お答えしていく特集番組「NHKに言いたい」を、19日(日)夜9時から11時15分まで放送しました。
番組は、冒頭で一連の不祥事とNHKの対応についてVTRなどでご説明した後、スタジオで有識者の方々と、海老沢会長が生放送で討論する形で進行しました。2時間15分の番組の中で、「不祥事を受けてNHKが取った対応について」「経営責任について」「受信料制度と公共放送のあり方について」、そして「信頼回復のためにNHKは何をすべきかについて」などを討論しました。
この中で、海老沢会長は「一連の不祥事につきまして視聴者・国民の皆さまから厳しい指摘を受け、慚愧(ざんき)に耐えず、信頼を損なったことをあらためてお詫びしたい。本当に申し訳ありませんでした」と陳謝しました。
自らの経営責任については、「会長の職に恋々(れんれん)としているわけではありません。現在、全職員をあげて再発防止の取り組みと信頼回復のための抜本的な改革を進めており、こうした緊急の課題を軌道に乗せた後、自分自身で判断したいと思います」と述べました。
また、9月の衆議院の総務委員会に、海老沢会長が参考人として呼ばれた質疑を中継しなかったことについては、「背景を織り交ぜて視聴者にわかりやすく放送した方がいいと考えて、私自身が判断したことですが、今思えば、あの時中継しておけばよかったと思っています」と述べました。
そして海老沢会長は、再発防止などのための特集番組をあらためて作ることを明らかにしました。その上で、受信料制度のあり方やNHKの抜本的な改革などについて、「各階の有識者に集まってもらい、年明けにも懇談会を設けて検討していただきます。また、各地で開いている視聴者会議の参加者や回数をさらに増やして、視聴者の皆さまの意見をお聞きする機会を拡充していきたいと思います」と述べました。
NHKは、今後とも、引き続き視聴者・国民の皆さまの声に真摯に耳を傾け、生活に役立ち、心が豊かになるような良い番組を放送してまいります。皆さまのご理解とご支援をどうぞよろしくお願い申し上げます。
以下、ご質問にお答えいたします。
質問1. 6,600人あまりの投票者の約半数が受信料を支払っておらず、また9割以上が受信料制度に納得がいかないと回答した結果(別紙資料参照)について、率直なご感想とご意見をお聞かせください。
受信料制度の基本は、NHKが公共放送としての業務を行うために必要な経費を受信機の設置者に公平に負担していただくことにあります。この受信料を財源とするからこそ、NHKは、視聴者・国民の立場に立って裕で公正な放送サービスを継続して提供していくことが可能になります。
受信料については、放送法第32条第1項に「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」という規定があり、これに基づき、総務大臣の認可を得て定めた日本放送協会放送受信規約第5条に「‥‥放送受信料を支払わなければならない。」と規定されています。
NHKでは、あらゆる機会をとらえて、受信料制度や公共放送の役割について視聴者の皆様にご理解をいただくよう説明しています。
今後、公平負担の徹底のために更に一層の努力が必要と考えています。
質問2. 実際に視聴していなくても受信機を設置しているだけで、日本放送協会と受信契約を締結する義務を負わせている放送法32条の規定について、選択の自由を奪われているとの意見が多く寄せられました。この点について、視聴時間に応じた課金(従量課金)やペイパービュー方式の導入の是非についてご意見をお聞かせください。
見たい人が見たい番組に対してお金を払ってその分だけ番組を見るというのは、受信料に比べて、合理的でわかりやすい課金の仕方に思えるかも知れません。
ただし、そうした有料課金方式の場合、番組は、例えば映画やスポーツなど、数多くの人にお金を払ってもらえる内容のものに偏りがちになります。
一方で、地震や台風などの災害や事件・事故などの際、視聴者の生命や財産を守るのに一刻の猶予も許されないニュース報道、児童・生徒向けの教育番組、聴覚障害がある方のための手話ニュースなどは、ペイパービュー方式などの有料課金放送では多くを期待できません。
したがって、有料課金方式では、お金を払える人は自由に見たい番組を見ることができますが、暮らしにゆとりのない人はあまり番組を見られないことになり、情報格差が生まれることが心配されます。
受信料制度は、公共放送であるNHKが放送を行うために必要となる経費を、受信機を設置した方に公平に負担いただくことにより、地域・経済・年齢などさまざまな環境の中で暮らしておられる視聴者に向けて、全国津々浦々まで"あまねく"豊かで公正な放送をお届けすることを目的にしています。
受信料による公共放送、広告収入による民間放送、そしてペイパービュー方式などによる有料課金放送とが、共存しつつ互いに切磋琢磨して、放送を全体として多様で質の高いものにするというのが、望ましいあり方なのではないでしょうか。
質問3. 民間放送事業者も増え、「公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内放送を行」う(放送法7条)という日本放送協会の設立目的も意義が薄れてきたとの意見もあります。この点に関して、受信料を財源に運営される公共放送の存在意義を、税金を財源とする国営放送、広告収入を財源とする民間放送と比較してお聞かせください。
税金などで運営される「国営放送」は、財源などを通じて国家の強いコントロールの下に置かれることになります。
このため、放送の不偏不党を保ち、表現の自由を確保することが難しく、国民の間に自由な言論表現の場を広げ、健全な民主主義を発展させるためには、問題があると考えられます。
一方、広告放送の収入で運営される「民間放送」は、創意工夫により自由闊達な放送を行うことができるというメリットがありますが、広告収入を増やすためにどうしても視聴率をした番組作りになりがちです。
これに対して、受信料を主な財源とする「公共放送」は、営利を目的とせず、国家の統制からも自立して、国民全体の福祉の向上のために行う放送と言えます。
イギリスやドイツ、フランス、イタリア、韓国など数多くの国でも、財源の異なる放送局が互いに競い合いながら、その国の放送文化を発展させるという考え方から、「公共放送」と「民間放送」の二元体制という放送制度を採用しています。
日本でも、受信料で運営される「公共放送」NHKと広告収入による「民間放送」とが切磋琢磨しながら、豊かで高品質の番組を視聴者にお届けする放送体制が確立しています。
この二元体制の下で、NHKはデジタル化やネットワーク化が進行する時代にも、視聴者からの様々な期待に応える放送を行って、日本社会における言論の多様性を確保するとともに、質の高い番組を提供することで、日本の放送文化の発展に先導的役割を果たしていきたいと考えています。
質問4. 受信料の徴収について、支払拒否をしている世帯からは徴収せず、また、携帯電話やパソコンによる放送の受信については捕捉しきれていない、沖縄県の受信料は他の地域に比べ低額に設定されているなど、不公平であるとの意見が寄せられています。この点に関して、不払い者に対する徴収強化や受信設備の捕捉強化、具体的には英BBCのような罰金制度や探査車や携帯式の調査機を使った受信設備の捕捉等の対策を導入することの是非についてご意見をお聞かせください。
NHKが受信料の支払い拒否者を放置しているということはありません。受信機を設置しているにも関わらず受信契約のお届けがない方や、受信料のお支払いが滞っている方について、きめ細かくねばり強い訪問・説得活動を重ねています。
テレビやパソコン、携帯電話あるいはカーナビなど、受信機の種類にかかわらず、NHKの放送を受信することのできる受信機を設置した場合には、受信契約が必要となります。
NHKの営業活動では、受信契約のない世帯は全戸を訪問して受信機の設置の有無を確認しており、その際にパソコンや携帯電話などによって放送を受信している場合は、受信契約をお願いすることになります。
ただし、受信契約は世帯単位であるため、一般の家庭でテレビ機能付きのパソコン・携帯電話を含めて複数台のテレビを所有している場合でも、必要な受信契約は1件となります。
今後についても、こうした様々な受信形態の普及状況を見定めながら、必要に応じて、受信機の設置を確認する際の対応をいっそう徹底させていく考えです。
沖縄県における受信料額については、「沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律<沖縄復帰特別措置法>」第135条の規定に基づいて設定しているものです。
<沖縄復帰特別措置法>
第135条 沖縄県の区域において日本放送協会が徴収する受信料の月額は、当分の間、沖縄県の区域における日本放送協会の業務の実状及び社会的経済的事情を考慮して定めなければならない。
各国の公共放送は、それぞれの国の歴史、伝統、政治、経済等に応じて独自の発展を遂げています。罰則等についても各国が独自に定めています。
NHKでは、いたずらに法律に頼り、不払い者に対する強硬手段に訴えることは、日本の放送文化を担う組織としてふさわしくないと考えています。
探査車や探知機を用いて受信設備の捕捉を行うには、受信機から屋外に漏れ出た電波を感知しなくてはなりません。
このため、探査車や探知機の導入に関しては、プライバシー保護の観点等から、慎重な判断と社会的な認知が必要であると考えています。
質問5. 受信料の使途について、民間企業に比べ、コスト意識が低いのではないか、より有効に使用してほしい、との意見が寄せられました。この点に関して、現状についてどのように考えておられるか、また、経営の合理化、具体的には人件費や制作費の削減の是非についてご意見をお聞かせください。
NHKは、みなさまの受信料で成り立つ公共放送であるということを認識し、業務運営にあたっては、常に業務を見直すことによって経費を削減するなどコスト意識を持った効率的な業務運営に努めています。これらの努力による経費削減額は、16年度予算では168億円で、業務改革を始めた平成9年度からの累計では1,191億円になりました。
そして、この経費削減で生み出した原資を公共放送の使命達成のため、地上デジタル放送の全国展開や、多発する自然災害などのため、地上デジタル放送の全国展開や、多発する自然災害などに対しての災害・緊急報道、福祉・教育・地域放送の実施などに重点配分しています。このような受信料の有効使用に努めた業務運営によって、平成10年度以降7年連続で収支均衡予算を編成するとともに、受信料額は平成2年度以降、14年間据え置いています。
また、毎年、要員の削減を進めており、平成16年度の要員数は、ピーク時に比べて約5千人少ない11,885人になりました。
さらに,ここ数年は会長・役員及び管理職の給与カットなどを実施しています。
16年度予算では、番組制作費や放送の送出・送信経費などの事業運営費は、対前年度▲32億円の減少、うち人件費は▲2億円の減少で、限られた財源の中で、効率的な業務の実施に努めています。
質問6. 放送内容について、報道・災害時の放送やドキュメンタリー番組、子供向け番組については肯定的な意見が多かった反面、ドラマや歌番組、娯楽番組については、民間放送でも制作・放映可能であり、あえて日本放送協会で制作・放映する必要はないのではないか、との意見が寄せられました。この点に関して、現在の番組編成についてどのようにお考えでしょうか。
地上放送のデジタル化により、テレビは本格的なデジタル時代に入りました。新しいデジタルサービスの実現で、日本ではさまざまな情報、さまざまな作品・番組を選択していただくことが可能となり、したがって、NHKには、視聴者・国民ひとり一人のさまざまなご要望、ご期待、要求に応えていく多様なコンテンツを提供することが求められていると考えています。
我が国では、放送法のもとに公共放送と民間放送との「二元体制」で放送を実施しておりますが、それぞれに大きな特徴があります。NHKは、広く視聴者の意向に応えながら、日本人にとって欠くべからざる文化を守り育てることができる放送機関だと考えています。
例えば、童謡や唱歌は日本人にとって後世に伝えていく文化です。また、民謡や演歌は、日本人にとっては忘れてはならない存在のはずです。バラエティー番組でも、テーマに沿って、出演者の芝居や話芸の才能を発揮させることで、幅広い年代層に見ていただける番組となっています。その結果、NHKの芸能番組はたくさんの視聴者にご覧いただき、多くの反響もいただいております。
ドラマは基本的にフィクションですが、一方でテレビドラマはジャーナルなものでもあります。現代社会で起こっている現象をドラマ化する事で、例えば少年たちの悩みや苦悩、ときには犯罪に至る心理を細やかに描くことができます。また、時代劇や日本各地を舞台にしたドラマは、NHKならではのものとして、多くの方からの強い支持をいただいております。
また、NHKが開発・制作した番組が、他局で形を変えて制作されている娯楽番組も数多くあり、これからも民間放送とは違う立場で、日本の映像文化をリードし、育ててゆくことは、公共放送の役割の一つと考えています。
放送法は、日本の放送形態を公共放送、商業放送の2本立てにしていますが、よい意味での競争原理を導入し、両者の特色を最大限に発揮させて、放送文化を健全に発展させる狙いがあったものと理解しています。NHKは、今後とも視聴者のご意見や声を大切に受け止めながら、多くの方々に楽しんでいただける娯楽番組を制作してまいります。
質問7. 受信料の不払いについては、相次ぐ不祥事や集金スタッフの対応の悪さ(説明不足・マナーの悪さ)も原因のひとつであると考えられます。この点に関して、情報公開、不祥事の再発防止、スタッフの教育等、今後の対策についてご意見をお聞かせください。
受信料の契約収納業務は、全国の営業現場で委託契約をしている地域スタッフが担っています。地域スタッフには、常に適正な業務遂行や手続きに心がけ、視聴者の方に不信や疑念をもたれることがないよう注意することを指導しています。
特に月1回は、地域スタッフが受け持ち区域の営業部・営業センターへ集合して、「接客のマナー」や「適切な事務処理」についての研修会等に参加し、マナー向上等に努めています。
また、新たに受信契約をお願いする場合には、受信料制度について、十分ご説明することも含め、そのようなご指摘を受けることの内容、今後一層、指導を徹底します。
■今回のNHKの受信料問題は、本法人の設立趣旨を踏まえ、法律の建前と市民感覚のかい離が甚だしいテーマについて読者と一緒に掘り下げて考えてみようという企画「皆で考えよう、法の建前と現実」の第1回テーマとして実施されたものです。
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