第4回
同居を始めてみると、武が店で言っていたことは、大半が作り話であった。
部屋は確かにU駅近くのマンションだったが、武の所有ではなかった。貸主が友人なので、賃料を延滞しても無理が利くというだけである。
不動産業というふれ込みだったが、店舗を構えているわけでもなく、物件を知り合いの不動産屋に紹介しては小遣いをもらうだけである。売買が成立したときは多少まとまった金になったが、月々安定した収入はなかった。
「最近景気が悪うてな。すまんな」
口では謝ったが、平然としていた。ほかに仕事を見つけようとするわけでもないのだ。
毎日昼前まで寝ており、時折パチンコや競輪に出かけた。勝ったときは飲んで帰ってきた。同居前には「ホステスを辞めろ」と言っていたが、これでは倫子が働かざるを得ない。
そのうえ、倫子は店を馘になった。武と同居を始めて間もないある日、倫子はママに呼び出された。
「ちょっと聞くけどな。あんた、タケさんと住んでんの?」
「・・はい」
「ふぅ、やっぱりそうか。ま、誰と暮らそうとあんたの勝手やけどな。そういうことなら、今日から店には出んといてや」
倫子は驚いて、
「な、何でですか? ―あの、それ困ります、うち、働かなならんのです」
「あのなぁ、あんたがタケさんとできてるて、客の間で評判になってんのや。あんたら二人、仲良ぉ、サンダル履きで散歩してんにゃてな」
倫子は顔を赤らめた。
「お客さんにしてみたら、常連と住んどる女が席についても、何のおもろいこともないわ。シラけるだけや。阿呆らしいて、金なんか払う気になるかいな」
「・・・すみません」
「この不景気に、ほんま、何考えとんにゃろなァ。
―あ、それからな、働くんやったら、ここらはやめといてや。辞めた女にウロウロされたら迷惑やさかい。わかったな」
「・・・」
倫子は帰宅すると、一部始終を武に報告した。経営者としてもっともな点があるとはいえ、ママの言葉はあまりに冷たいと思えたからである。武がママに何か言ってくれるのではないか、という期待があったのだ。
しかし武は、
「―しゃぁないな。ほな、離れたとこで探せや」と言ったきりであった。
(続く)