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娘を探して ─ 誘拐と詐欺の狭間で 第十三回

 それから4年余りの月日が経過した。
  息子の隆は中学生2年の冬を迎え、高校受験が近づいていた。妻との間は冷え切ったままだ。

 「あなた、ちょっと」

 出勤間際、玄関で靴を履く私に、妻が近づいてきた。顔がこわばっている。

 「昨日、N銀の柴田さんから電話があったの。あなたが隆の学資保険を解約なさったって。―本当なんですか」
  「ああ」
  「ああって、・・・300万はあったはずよ。どうなさったの?」
  「高田さんに渡した」

 妻は血相を変えた。

 「冗談じゃないわ、一体いくら高田につぎ込んだら気が済むの?―真帆を取り返すなんて言って、あんな男の言うままになって。隆はどうでもいいって言うんですか?!」
  「―お前と話す気はない」
  「いえ、今日という今日は言わせていただきます。

 あなた、高田が一体何をしてくれたって言うの。やれ犯人の居所をつきとめるとか捜査費だとか言って、どんどんお金を持っていくじゃない。
  今この家にお金がどれだけ残っているか、ご存知なの? 定期預金が一口残ったきりなのよ。貯金も何も、全部つぎ込んでしまって、―それで何が分かったっていうの?」

 「真帆の居所がはっきりしたじゃないか」
  「じゃあ教えてください、私はあの子の母親なんです、知る権利があるわ。それはどこ? 何県の何町?」
  「犯人のところだ。場所は高田さんがご存知だ」

 妻は吐き棄てるように叫んだ。

 「あなたがそんなにバカだとは、今の今まで知らなかったわ!
   あのね、高田の言うことが本当なら、どうして場所が言えないの?こんなの詐欺じゃない!」
  「場所を教えたら、お前が乗り込む危険があるというんだ。何度も話したろう。もっと冷静になれないのか?」
  「ええ、乗り込みますとも。ちゃんと真帆を取り返してくるわ。場所はどこ?犯人は誰?言えるものなら言ってみなさいよ!」
  「そんな話はまたにしてくれ。俺は仕事に行く」
  「何て身勝手な人なの?隆と私はどうなってもいいの?」

 妻は怒りに任せて武者ぶりついてきた。私は平手で妻の顔を払った。妻の細い体が玄関に崩れ落ちた。

 「あなた!」

 私も自分が抑えられなくなっていた。

 「ここで止めたら元の木阿弥だ。高田さんしかいないんだ。
   警察が何をしてくれた?お前は真帆をどれだけ探したんだ?母親面して偉そうなことを言うな。
   ―そんなに金が大事なら、残りの貯金をくれてやる。―退職してでも金を作るぞ。そのつもりでいろ!」

 玄関を出ると、初冬の風が吹きつけてきた。

(続く)

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