前回までは平成15年労基法改正のメインである解雇法制の改正点について解説致しました。今回は平成15年労基法改正のうち専門業務型裁量労働制に関する改正点について解説致します。
1. 専門業務型裁量労働制導入時の要件の追加 (労働基準法38条の3)
裁量労働制とは業務の性質上、業務遂行の手段や時間配分について大幅に労働者の裁量に委ねる業務について、使用者が具体的な指示をしないとする制度です。高度に専門的な業務や、企画立案型の業務については労働時間法制になじまない面もあることから、一定の要件の下でその採用が認められています。
このうち専門業務型の裁量労働制について導入要件の追加が行われました。これは専門業務型裁量労働制の適用を受けている労働者について、健康上の不安を感じている労働者が多い等の現状があることから、裁量労働制が働き過ぎにつながることのないよう、労使協定において健康・福祉確保措置及び苦情処理措置の導入を必要とすることとしたものです。
健康・福祉確保措置としましては次のような措置が考えられます(厚生労働省作成のパンフレットより)。
- 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日または特別な休暇を付与すること
- 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること
- 働き過ぎの防止の観点から、年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること
- 心と体の健康問題についての相談窓口を設置すること
- 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換すること
- 働き過ぎによる健康障害防止の観点から、必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、または対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること
厚生労働省では「使用者は把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、対象労働者への専門業務型裁量労働制の適用について必要な見直しを行うことを協定に含めることが望ましい」としています。
また、苦情処理措置については、「その内容を具体的に明らかにすることが必要であり、例えば、苦情の申出の窓口及び担当者、取り扱う苦情の範囲、処理の手順・方法等を明らかにすることが望ましく、この際、使用者や人事担当者以外の者を申出の窓口とすること等の工夫により、対象労働者が苦情を申し出やすい仕組みとすることや、取り扱う苦情の範囲については対象労働者に適用される評価制度、賃金制度及びこれらに付随する事項に関する苦情も含むことが望ましい」とされています。
これらの改正については経過措置が設けられていないことから制度の導入を行っている使用者は早急に労使協定を改定し労働基準監督署へ届け出ることが必要です。
なお、これらの健康・福祉確保措置及び苦情処理措置を必要とすることとしたことに伴い、使用者に対して、制度の対象となる労働者の労働時間の状況及び当該労働者の健康・福祉を確保するための措置として講じた措置、制度の対象となる労働者からの苦情処理に関する措置に係る記録を協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存することとなりました。
2. 専門業務型裁量労働制の対象業務の追加 (平成15年厚生労働省告示第354号)
専門業務型裁量労働制の適用対象業務は従来18の業務が定められていましたが、今回新たに「学校教育法に規定する大学における教授研究の業務」が追加されました。
当該業務は学校教育法に規定する大学の教授、助教授又は講師の業務をいうものであり、「教授研究」とは「学校教育法に規定する大学の教授、助教授又は講師が、学生を教授し、その研究を指導し、研究に従事すること」を言い、患者との関係のために一定の時間帯を設定して行う診療の業務は含まれないとされています。
また、「主として研究に従事する」とは、業務の中心はあくまで研究の業務であり、具体的には講義等の授業の時間が、多くとも1週の所定労働時間又は法定労働時間のうち短いものについて、その概ね5割に満たない程度であることを言います。
次回はもう一つの裁量労働制である企画業務型裁量労働制に関する改正点について解説します。