第1 総論
ここ数年、企業の不祥事がマスコミに取り上げられる件数が増加しています。
そして、そのうちの8割から9割方が会社の内部者あるいは関係者からのリークに端を発したものであると言われています。
例えば、三菱自動車工業のリコール隠しは社員の運輸省(当時)への匿名通報により、雪印食品によるBSE(狂牛病)関連の詐欺事件は取引先の捜査機関への通報により、日本ハムによるBSE対策事業における詐欺事件は農水省近畿農政局への匿名通報により、京都府浅田農産での鳥インフルエンザ感染は保健所への匿名通報により、それぞれ発覚しています。
最近では企業に法令遵守を求める社会的風潮が特に顕著となり、企業も社内の違法行為や不正行為の「内部告発」を奨励するようになってきておりますが、まだまだ内部告発者を探しだして不利益処分を与える企業も存在しています。
そんな中、平成16年6月14日、企業や官公庁で起きた法令違反の内部告発者を解雇や降格等の不利益処分から保護するための「公益通報者保護法」が成立しました(施行は平成18年4月以降となる見通し)。
この法案の内容については、告発者よりも告発の対象とされる事業者を加重に保護するものであるなどの批判はありますが、内部告発を奨励する風潮に沿う流れにあることは疑いがないでしょう。
今回は、内部告発増加の背景、法令違反による企業のリスクと内部告発制度の必要性、内部告発制度の具体的な構築方法、内部告発制度の具体的な運用についてお話ししたいと思います。
第2 内部告発増加の背景
1 内部告発増加の背景として、まず第一に「違法行為、不祥事自体の増大」が挙げられます。
バブル崩壊後、日本の企業の多くが経営の成果主義化・効率主義化を押し進めておりますが、経営者や従業員を問わず、「会社や組織の利益のため」という重圧の中、違法性の認識を押し潰して利益優先や保身の姿勢を採り続け、違法行為や不祥事へと発展しているケースが多いと言えるでしょう。
2 第二に、「インターネットの普及により、誰もが容易に企業の不祥事を外部に告発できる環境になったこと」も背景として挙げられるでしょう。
既に終身雇用制度は崩壊し、従業員の会社に対する忠誠心が希薄となった今日、従業員に対して企業の経営姿勢に服従を強いることは困難であり、また、成果主義・効率主義が必然的に内包する企業内の落伍者の妬み・嫉みによるリークも軽視できません。
3 第三に、外圧により、日本企業の統治に関してグローバルスタンダードが要求されるようになり、経営の透明性・信頼性が一層重視される社会風潮になったことも、少なからず影響しているでしょう。
4 以上のような事情を背景として内部告発は増大してきましたが、次回は、法令違反により企業が晒されるリスクと内部告発制度の必要性について考えていきます。(続く)