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死者と生者―犯人蔵匿罪 第三回

第三回 加害者たち(2)

 初めて聞く、凶暴な友の声であった。二人は思わず息を呑み、早瀬の青凄んだ顔を見た。

 「コラ、よぅ聞けよ。お前ら、木村が運転してたて、マジでサツに唄うつもりかい」

 「センパイ・・・」

 「仕方がないやろ、事実なんやから」

 高山は、蚊の鳴くような横山の声を遮り、きっぱりと言い返した。

 早瀬と高山は、中学・高校時代の同級生であったことは、先にも書いた。高校2年のとき、早瀬の父親がN市に転勤したため、早瀬もN市の高校に転校したのである。横山と木村は、早瀬が転校したN市の高校の後輩にあたる。
 早瀬は高校を卒業すると、N市の不動産会社に就職した。親分肌の早瀬は、横山と木村を連れて遊び回るようになった。盆や正月には、必ず二人を連れてO市を訪れた。それは関西唯一といわれるO市の繁華街を後輩に見せたいという子供じみた虚栄心であったが、一方では高山に会いたくもあったのだ。
 高山は高校卒業後、O市内の大学に進学して地元に残っていた。

 就職以来、早瀬はN市の土地柄に馴染めなくなっていた。営業の仕事をするようになってからというもの、N地方に特有の気質に対する違和感は強まるばかりだった。故里O市の気風が懐かしくてたまらなかった。
 早瀬と高山はまったく性格が違ったので、高校までは特に親しい関係ではなかった。しかし、高校までの遊び仲間はすでに散り散りになって、連絡が取れなかった。
 それに、後輩の二人を紹介するとなると、高校時代の仲間-モヒカン刈りを振り立て、落書きのような刺青を自慢げに彫りこんだ遊び仲間-では恥ずかしいように思えもした。
 久しぶりで連絡をよこすようになった早瀬に、高山は気持ちよく応じてきた。穏やかな性格の高山は、横山、木村にも如才なく接した。  横山はN市職員の息子で、自身も市役所に就職をしたばかりだった。大人しい性格で、早瀬に口答えひとつしたことはない。  運転していた木村は高校を中退し、コンビニで働いている。いつも小遣いに困っていた。不安定な生活に疲れてもいた。早瀬が誘うと、二つ返事でついてきては、浴びるように酒を飲んだ。

 事件を通報することについて、横山が早瀬に口答えできないのは生来の性格であった。しかし、高山が早瀬に反対したのは、車を出したことを心から悔いていたからでもある。
 昨年の12月27日、早瀬の勤務先が冬休みに入ると、さっそく横山と木村を連れてO市にやって来た。いつものように高山を呼び出したが、高山はすぐに応じることができなかった。卒業論文に手こずり、動きが取れなかったのである。
 ようやく時間が取れたときには、もう大晦日になっていた。電話口の早瀬は、ずいぶん気分を害しているようだった。不機嫌な口調で、K港の汽笛を聞きに行きたいから車を出せ、と言った。
 高山は少々迷惑に感じた―というのも、3人は必ず酒を飲んでいるだろうから、彼自身が運転せざるをえなかったからである。卒論にかかりきりで睡眠不足が続いていたので、自分ひとりが終日運転するのはつらいと思った。
 彼は躊躇った― しかし、すぐ呼び出しに応じられなかった引け目があったので、結局は車を出すことに同意した。
 これが悲惨な事故になるとは、想像すらしなかったのだ。

(続く)

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