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娘を探して ─ 誘拐と詐欺の狭間で 第二回

第2回  悲劇の始まり

 あれは今から10年も前のことになる。私と妻は41歳、息子の隆は小学校1年生になったばかりだった。
  小学校に上がり、息子はめっきり腕白になっていた。幼稚園の頃はむしろ弱々しい印象で、男の子にしてはおとなしすぎるのでは、と思われた。しかし、次第に元気で強気な性格になり、ときには同級生との喧嘩に勝って、誇らしげな顔さえみせるようになっていた。
  娘は3歳、まさに美しい少女に育とうとしていた。妻に似た黒目がちの瞳が大きく、肌も抜けるように白い。
  乳児の頃は虚弱で、たびたび熱や発疹を出したが、2歳ごろから丈夫になった。近頃ではふと女らしい目つきさえして、私を驚かせる。
  ―こうやって、一人前の男や女になっていくんだな。
  子どもの成長を見られることが親の幸せ、と言う。本当にその通りだと思う。私たち夫婦も親としての幸せを十分に味わい、穏やかだが充実した日々を送っていた。

 小学校が初めての夏休みに入った。隆はしきりに海に行きたがった。
  真帆が虚弱だったため、家族でほとんど遠出をしたことがなかったのだ。思えば、福井にある妻の実家に墓参りに行くくらいがせいぜいだった。

 「みんな海に行くって言ってるんだ。オレも行きたいな」
  「海か」
  「いいんじゃない、行っても。真帆も丈夫になったし」

 妻が口を添えた。

 「小さい子は、山より海が好きなのよ。私たちもずいぶん泳いでないわよね」

 「海に行くの? 真帆も行けるの?」

 傍らで聞いていた娘は、黒い瞳を輝かせた。真帆にとっては初めての旅行なのだ。

 「真帆は大丈夫かな、陽に焼いたりして。色白だからなぁ」
  「真帆のことになると、あなたは本当に夢中ね」

 妻は苦笑いした。

 「じゃあ、お医者さんに聞いてみましょうよ。先生がいいって言って下さったら、行きましょう」
  「ほんと? 嬉しいな、嬉しいな」娘は喜んで飛び跳ねた。
  「ママ、水着買ってね!ピンクのね、お花がついたの」

 「お前、また熱なんか出すなよ」隆は兄らしく言った。

 3日後、かかりつけの医師の許可が下りた。私たち4人は、初めての家族旅行に行くことになったのである。
  各々が希望を言い合い、予定を立てていくのも、旅の楽しみの一つであろう。まだまだ子どもだと思っていた隆や真帆が、したいことや行きたい所を一人前に主張するのにも驚かされた。
  結局、神戸の自宅から日本海側をドライブし、途中で海水浴、城之崎温泉で一泊、京都に出て美味しいものでも食べようということになった。

 それが最後の旅行になるとは、誰が想像しただろうか。

(続く)

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